《MUMEI》 アタシはぐっと奥歯を噛み締め、元来た道を戻り始めた。 …静かだ。 アタシの歩く音しかしない。 誰の気配も無いけれど、何かの存在は感じる。 声は聞こえないけれど、空気は震えている。 そして…アタシを見ている視線に気付く。 けれどその存在に気付いた姿を見せれば、きっと囚われる。 走り出したい、叫び出したい衝動を抑えながら、一歩一歩を踏みしめて歩く。 だけどそろそろ限界かもしれない…。 叫んで、ここから逃げ出したい気持ちが心を占める。 手を組み、胸に当てて必死に堪える。 逃げ出したらダメ。捕まってしまうからダメ。 捕まれば、二度と逃げられない。戻ってこられない。 冷や汗が背中までダラダラ流れる。 足がガクガク震えだした。 目の前がくらっ…と揺れた。 あっ、これはヤバイ、な…。 もう…1人では耐えられない。 がくっと膝が折れるのと同時に、意識が遠のいた。 けれど、両肩を支えられ、意識が戻った。 「えっ…?」 ―大丈夫? おねーさん。 ―しっかりしろ。こんな所で倒れたら、ただでは済まされないぞ。 あの、2人の少年だった。 「どっどうしてここへ…」 ―説明は後でね。それより早く行こう。 ―出口はこっちだ。 2人がそれぞれ手を掴んで引っ張るので、アタシは歩き出した。 呆然としながらも、頭が真っ白だった。 それは安心感がどっと訪れたから。 前へ |次へ |
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