《MUMEI》

この町には寺や神社は存在しない。

ここの神様は土地の神様で、町に点在するお地蔵さん自体がご神体となっている。



…だからお地蔵さんには、新しいお供えがしてあったんだ。



そして少年の母親は、お地蔵さんを統一する家の者。

少年はその家の最後の1人だったと言う。

だからその少年に何か被害を及ぼそうとするのならば…。

お地蔵さん達が、黙っていない。



……それじゃあ家の人達は、少年に返り討ちにされたのではなく、お地蔵さん達に…?

心に浮かんだ疑問を、言葉としては出せなかった。

言った途端、何か恐ろしい目に合う予感がしたからだ。

―お地蔵さんにもいろんな種類があってね。子供を守る優しいお地蔵さんもいれば、自分を祀る者を傷付ける者に厳しい罰を与えるお地蔵さんもいる。

「…じゃあ、この屋敷の人達を手にかけたのは…」

―ああ、守り神ってことだ。

「じっじゃあ、少年はどうしたの? お地蔵さんに連れてかれちゃったの?」

―そうじゃないよ、おねーさん。その少年は元の居場所に戻っただけだよ。

元の居場所?

…あっ、母親が神道系の者で、少年はその血筋の最後の1人だったなら…少年は『そこ』へ連れ戻されたんだ。

この町の、守り神の手によって。

だから少年は行方不明ということになってしまったんだ…。

―ところが話は終わりじゃないんだ。

突然、明るかった少年の声が低くなった。

―守り神によって死に絶えた人間はその後、悪しきモノとなる。この屋敷の者達全て、悪しきモノへと変貌したんだ。

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