《MUMEI》

「変わったって…。どうして今頃…。ずっとオレの近くにいてくれたじゃんか」

「でももう限界なの! 周りの人からも、離れた方が良いって言われ続けて…わたしも辛いのよ!」

彼女とのノロケ話を聞かされ続けることも!

彼女とのことを相談され続けることも!

そんな話じゃなきゃ、あなたはわたしに話しかけてくれないことも!

「もういい加減、うんざりなの! だから別れて!」

…言った後に気付いた。

こんなセリフ、本当は別の意味で言いたかった。

「…別れるって、誰と?」

いきなり両腕を捕まれて、驚いて顔を上げた。

彼は…今まで見たことがないくらい、真剣な顔をしていた。

「誰と、別れるって? 言ってみなよ」

「いっ痛いっ!」

悲鳴を上げても、逃がしてくれない。

わたしは涙を浮かべながら、彼から視線をそらした。

「…彼女と別れて。わたしをっ…選んでよ」

情けない告白に、涙が溢れる。

けれど彼はいきなりわたしの腰を引き寄せ、

「んっ…!」

キスを、してきた。

「…最初から、そう言えよ。ずっとその言葉、待ってたんだからさ」

「ふっ…! …ばかぁ」

「ああ。大バカなんだよ。知ってるだろう?」

そう言って優しく抱き締めてくれる。

…うん、知ってる。

わたしもバカだってこと。

だって大バカなあなたのことを、好きなんだもの。

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