《MUMEI》 「うん?」 「親になるのに、覚悟ってやっぱり必要よね」 腕の中の彼女は、どこか遠い目をしていた。 「わたしが生まれる前にお父さん死んじゃったから、そういうの分からなかったわ。ごめんなさいね」 「あっ謝ることじゃないよ! 僕がまだ、精神的に幼いだけだから」 彼女の父親がすでに亡くなっていたことは知っていたけれど、まさか彼女が生まれる前に死んでいたとは思わなかった。 「でもそうなると、キミのお母さんは強いね。たった一人でキミを育ててきたんだから」 「う〜ん。でもウチの家系、母子家庭が多いの。だからたくましいのよ」 「そう、なんだ」 現代では離婚は珍しくない。 だけど触れていいことでもないので、僕は話題を終了させた。 それから5年後―。 僕は彼女の母親が言った通り、人気弁護士となった。 個人事務所を2年前から立ち上げ、街中のビルにオフィスを設立した。 今では30人もの部下を持ち、毎日忙しくも充実した日々を送っていた。 そんな中、彼女が言い出した。 「ねぇ…。そろそろ約束の5年目よ。子供、作らない?」 白い顔を赤く染め、彼女は囁いた。 「そう、だな。そろそろ良いかもな」 仕事が忙しいことから、お互いの両親は孫のことについては何も言い出さなかった。 けれど同じ歳の人達は、もう1人か2人の子供がいてもおかしくなくなった。 仕事も安定してきたし、彼女との二人っきりの生活は十分に楽しんだ。 前へ |次へ |
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