《MUMEI》

「いつの間にやら、アンタと付き合うようになったと…」

「何1人でブツブツ言ってんだ?」

「過去を振り返っていたのよ。アンタとアタシが出会った頃のこととかね」

鍋に入っているカレーをオタマでかき回しながら、アタシは深くため息をはいた。

彼の両親は共働きで、彼と付き合うようになってからは、彼の家で料理を作ることが多くなった。

今日は学校がお休み。

昼間は街でデートをして、その後彼の家で夕食を作っていた。

「あっ、サラダ何で食べる? ドレッシング? マヨネーズ?」

「タマネギ入りのドレッシング!」

「はいはい」

まるでお母さんと息子の会話だ。

「手伝おっか?」

「結構です! 破壊的料理センスを持っている方に手伝ってもらうと、惨劇が起きますので!」

「うっ…」

彼は料理の才能が無かった。

無かったどころかマイナス。ヒドイという次元じゃない!

一度手伝ってもらった過去があるけど、抹消したい。本気で。

そう思いながら、タマネギをみじん切りにする。

ドレッシングもマヨネーズも、手作りでできる。

彼の食生活は、かなり荒れていた。

だから彼の為に、メチャクチャ料理を勉強した。

おかげで今では有名レストランから、お声がかかるほどだ。

バイト先のファミレスからは、支店長をしてくれないかとまで言われているし…。

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