《MUMEI》 「なあなあ。進路、どうするか決めた?」 そう言って包丁を使っているのに、後ろから抱き着いてくる。 「当たり前でしょう? 今がどんな時期か、鈍いアンタでも分かるでしょう?」 「えっ、オレって鈍い?」 「ワリと天然な方向に」 淡々と語りながらも、料理をする手は止まらない。 「ん〜。お前、どうするんだ?」 「…料理専門学校に進もうかと思ってる。そしていずれは有名レストランで働こうかと」 「お前らしいな」 後ろで微笑むのが、気配で笑った。 そして頬に唇の感触…。 アタシはゆっくりと振り返る。 彼の優しい笑顔が、間近にあった。 そのまま重なる唇。 …何だかアタシ達のキスって、いっつもこう。 料理をしている時、彼がこうやって絡んでくるから…。 「…なあ」 「何?」 「将来はオレ専門の料理人って、どうだ?」 「……それってプロポーズ?」 「まあ、そんなもんだ」 にかっと天真爛漫な笑顔になられると、こっちが困るんですけど…。 「いやさ、正直。お前の作る料理に惚れててさ」 「…料理を作っている、アタシではなく?」 「今はお前だけど、昔は料理の方だったなぁ」 ドコッ! 「うごっ!」 彼の腹に肘鉄をくらわせ、アタシは料理を再開させた。 前へ |次へ |
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