《MUMEI》
八人目
どうしても、友達と遊んでいて帰りが遅れてしまった深夜2時の頃。

私は早く帰りたくて、その日はトンネルを使うことにしました。
自転車を全速力でとばせばすぐに着きます。


何か物を轢いた感覚があったが、暗闇だし急いでいたので気には止めませんでした。
オレンジのライトが点々と続く大きな孤を描くカーブのトンネルで、かろうじて出口が見えるが深夜ということもあり、静けさと八月の末で涼しい風が吹き抜けて、私は漕ぐ足を早めました。

ギイ、ギイイ、
自転車を最大の5に切り替えてペダルを蹴ります、あまり進まない気がしてもっと蹴りました。

ギイイ、ギイ、ギイ、

ギイイイ……

しかし、更にペダルは重みを増すような気がしました。

そう、まるで誰かに掴まれているような……、
気味が悪くなり、私は夢中でペダルを漕ぎました。

ギイ、ギイイ、ギイイイ……
ペダルを漕ぎながら、その時、私は気付いてしまったのです、自転車の漕ぐ音に混じりながら誰かが呻いている声に、咄嗟に私は足を止めてはいけないと思い、ペダルを漕ぎ続けました。

当時、祖母が私にと与えてくれた水晶のペンダントを握りしめ、私は一心不乱にうろ覚えのお経を呟きました。

サドルから振り落とされそうな後輪への重圧と、強くなる呻き声を掻き消そうと必死でした。


絶対にお経もペダルを漕ぐのも止めないようにしていると、やがて、トンネルが近付いて来るようでした。

私はトンネルを抜けることが出来たのです。
私の自転車の後輪には無数の触られたばかりのような指紋が付いていて、家に着くまではずっとお経と水晶が離せませんでした。

後日、あのトンネルのカーブでは七人も人が亡くなったと知りました。
八人目が自分だったと思うと今だにあのトンネルには近付けません。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫