《MUMEI》

私はリビングに行くと、適当に食料を漁った。
奥のほうから出てきたのは、スルメとチューハイ。恐らく母のちょっとしたストレス解消用だろう。
私はスルメを選択すると、「冷たい牛乳でもサッと溶ける」というのが売りの、ココアの粉末を出した。
冷蔵庫から牛乳を取り出し、ココアの粉末と一緒に混ぜる。
おまけに氷も入れてやった。

私はそれらをお盆にのせると、こぼさないように二階の自分の部屋へ持っていった。
すでに部屋の中にいた優子はくつろぎたい放題だった。
なぜか学校指定の長いジャージをレースのティアードミニスカートの中に履き、胡坐をかきながら私のアルバムを勝手に見ていた。

「ちょっと、何してんのよ」

私は眉をひそめる。

「お、ココアだ。しかも氷つき」

優子は私のアルバムをバタリと閉じた。
私はため息をつきながら、お盆を低い丸テーブルの上にのせる。

「てか、何でスルメ?」

「家に良いのなかった」

「にしてもさー…スルメとココアって合わないでしょ」

優子は飽きれた顔をしてこちらを見てくる。

「悪うございましたねっ」

私は少し不機嫌になる。


スルメのどこが悪いのよ…


「ごめんごめん、冗談よ。私もスルメは好き」

優子は私の頭をなでてくる。

「子供じゃないから」

私は優子の手を払った。優子は冷たいわねー、と言いながら、スルメの袋を開ける。


何だ、結局食べたかったのか…


「てか何でジャージ履いてんの?」

「えー、だってラクっしょ?」

優子はきょとんとしながら答える。

「楽っちゃ楽だけど…優子のイメージじゃない」

「じゃあこういうイメージも植えつけといて」

むしゃむしゃとスルメを食べながら、適当なことを言っている優子が、俗に言う“干物女”に見えてきた。


意外な一面というか何と言うか…


私はココアを飲みながら、その様子をぼーっと見つめる。

「でもさー、あんたの格好もないわよ」

優子が私を指差す。

「何よ、そのワンピース。小学生が着るようなデザインじゃん。だっさ」

「えー、そうかな?」

私は自分のワンピースを見る。全身水色の中にカラフルな魚が泳いでいる。



確かに、ブランド品なんかじゃないし、近くのスーパーの洋服売り場で買ってるけど……
売ってるんだから流行りなはず…


「やっぱり、服持ってきて良かったわ」

優子は持ってきた大きなバッグを漁る。
出てきたのはふりふりとした白とピンクのワンピース。しかも、露出度が高い。

「え…これ?」

私は思わず引きつった顔で聞き返す。

「ええ、もちろん」

優子がにっこりと笑い、圧力をかけてくる。


駄目だ、逃げられん…


私は、このワンピースが似合わないことを祈った。

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