《MUMEI》
スレシル
不穏な話の流れに、思わず明智は眉間にしわを寄せて山男の方を見る。

明智が魔法という単語を聞いた瞬間に少し嬉しそうな顔をして、山男は内心焦っていた。
漫画やアニメの影響からか、自分もそうだったが、多少なりとも魔法という物に憧れを持っているのは現代日本人なら致し方が無い。

しかし、現実そんなに甘くない事を山男は身を持って体験していた。
だからこそ、同じ境遇に陥ってしまった旧友の弟、しかも自分の務める学校の生徒にはあらかじめ警告をならしておかなければならない事がある。

わからない。という目をしている明智に対して声のトーンを落としたまま説明を続ける。

「フェルの力を吸収する。これは、単に魔法を使える様になるってことだけじゃないんだ。
この世界の理とは別の、フェルの世界の理を身体に取り込んでしまっている状態になることなんだ。まぁ、だからこそ魔法も使えるようになる。」

「フェルの世界の理?が、こっちと違う事はさっきも聞きましたけど。具体的にはまだ聞いてないんで、ピンと来ないんですけど。」

「まず、時間軸のスピードが全然違う。身体が壊れてしまう一番の原因はこれだ。」

「時間軸?もしかして、ソウに入っている時に時間が止まっている様に感じていたのはそのせいですか?」

「カンが良いな。止まっていたワケではない。お前の時間が早くなっているんだ。周りは通常に進んでいるのに。ソウに入る。って言うのも魔法を使っている状態だ。魔法を使っている時は、お前の身体の理はフェル世界の理になる。地球上にいたとしても。
だからこそ、いや、むしろ地球上にいるのに、魔法を使ってしまうからソウに入ってしまう。」

「という事は…ソウに入る。って魔法があるんじゃなくて、魔法を使っている時に、ソウが発動?発生?するんですね?身体がフェル状態になるから。それで、時間の進みが遅く感じられる。」

「フェル状態…か。なるほど。いや、しかし、やはり人間とフェルは別物だよ。フェルの力を吸収はするけど、フェルではない。
大切な言葉を教えていなかったな。フェルの力を吸収して力を得てしまった人間の事をスレシルという。明智はサプリのスレシルって事になる。」

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