《MUMEI》

「お母さ〜ん!!皆と遊んでくるね!!」

「あんたさっきまで寝てたと思ったら・・・・・」

騒がしく階段を駆け下りてくる今宵を見て、加奈子は呆れる。

「行ってきま〜す!!」

「気をつけるのよー!!」

今宵は加奈子の声を背に、玄関を出た。

しかし慌てていたせいか、玄関に並べてあった靴を踏んづけて足を滑らせる。

「うぎゃっ!!」

「ちょ、今宵!!」

加奈子の慌てた声が飛ぶ。

今宵はそのままドアに激突するはずだったが、そのドアが無くなった。

「うえぇぇ!?」

どうなっちゃうの〜!?

今宵は硬く目を瞑る。

硬い金属製のドアとご対面するはずだったが額が、ポスッと柔らかいものに包まれる。

「うぷっ」

「遅いから何してるのかと思ったら・・・・・・。コケてたの?」

「歩雪くん!?」

今宵は目を開けて見上げると、歩雪の呆れた顔があった。

今宵の華奢な体を抱きかかえる形で支えていた歩雪は、ゆっくりと腕を緩める。

「ごめんね、ふーくん。この子ってばいっつもこうなんだから!!」

「いえ、慣れてますから」

「何、その慣れてるって!!」

む〜。

最近はそんなに転んで無いもん!!

今宵は心の中で軽く認めながらも、反論した。

「ほら、ホントに遅れる」

「あ、ホントだ!!今度こそ行ってきます!!」

「気をつけるのよ!!ふーくんお願いね」

歩雪はペコッと頭を下げると、ドアを閉めた。

「ふーくんがいなかったら、あの子はどうなってたのかしら?」

2人が出て行ったドアを見ながら、加奈子は本気で考えていた。



「あはは〜!!歩雪くんナイスタイミングだね!!」

「あれは偶然だけどね。・・・・・・って危ない」

後ろにいる歩雪に向かって親指を立てて突き出していると、歩雪が慌てて今宵の手を引っ張った。

「へ?」

「あんたはなんでそんなに鈍感なの」

「何それ!!」

歩雪が指差す先には、硬いコンクリートで固められた電柱柱が建っていた。

うわぁ・・・・・・。

あれとご対面♪なんてなったらシャレにならないし!!

「ありがとーございました」

「ホントにね」

深々と頭を下げる今宵を見て、歩雪は溜息をついた。

「あの、歩雪くん?」

「何」

「これはどうしたら?」

今宵は繋がれたままの手を見て、困惑したように尋ねる。

できればもう離していただけると・・・・・・。

歩雪は手を離さず、更にギュッと握る。

「こーは見てるだけで危ないから、駄目」

平然と歩いていく歩雪を見て、今宵は顔が赤いのを隠すように俯く。

恥ずかしいけど、なんか嬉しいかも。

これぐらいはいいよね。

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