《MUMEI》

「処で仕事の方はどう?順調?」
徐に始まった会話
なんとかこなしていると告げてやれば
「あの馬鹿共の相手は中々に大変でしょ」
困った風な笑みを担任は浮かべて見せた
どうやら口振からいって岡部等を知っているらしく
「先生は高虎……じゃない、岡部先生達の事知ってるんですか?」
訊ねてみた
「知ってるわよ。岡部 高虎は私の弟だもの」
「弟……?」
「そ。びっくりた?」
聞かされた事実に岡本は当然に驚き返事を返せずにいた一瞬の間の後
驚きに叫ぶ岡本のそれが辺りに響き渡った
「あの馬鹿共、随分と楽しくやってるみたいじゃない。岡本さんのこと余程気に入ったみたいね」
「気にいったって、そんな事……」
「あら、あいつらああ見えて結構好みとかうるさいのよ。生意気だと思わない?」
顔を顰めながら担任は話す事を続ける
好みがうるさい
という事は四人それぞれ理想というモノがある訳で
それが一体どういうものなのかは解る筈もないが
岡本自身は、自分がソレに当てはまらないのでは、と首をかしげて見せた
「……ならどうして私なんか雇ったんでしょうか?私そこまで出来るヒトって訳でもないし、ましてや可愛い訳でもないし」
「あら、そんな事無いわよ。こんなに長くあいつらの相手が務まったのってあなたが初めてなんだから。それに」
態々此処で言葉を区切ると、担任は岡本を真正面から見据え
「岡本さんは充分可愛いんだから」
自信を持て、との激励を受ける
面と向かってのその賞讃に照れる岡本
その様を担任は微笑ましく眺めていた
「あら、どうやらお迎えが来たみたいね。じゃ、私は此処で」
寮の近くまで帰ってくれば、その向かいから歩いてくる小森の姿があた
どうやら岡本を捜しに来たようで
その姿を見つけるなり駆け寄ってきた
「一人で帰ってきたの?迷ったりしなかった?」
「だ、大丈夫」
迷いはしたのだが、此処は心配をかけない様何事もなかったかのように返事を返す
「そか、なら良かった。お帰り」
満面の笑みが岡本へと向けられ
更に頭へ小森の手が置かれる
その笑顔に照れ、岡本は顔を伏せてしまいながらも
何とかただいまを返していた
「そう言えば、明日だね」
家の中へと入りながら小森が徐に母す事始める
一体何の事か、岡本が首を傾げれば
「高等部の卒業式。確か明日って聞いたけど」
違ったか、と改められ
それまでさして実感など無かった岡本だったが、漸く実感する
「……そか。私明日で卒業なんだ」
「実感、わかない?」
「……あんまり」
「ま、タマちゃんの場合卒業しても職場が此処な訳だし、無理もないか」
どうしてか楽しげな小森
そんな小森へ
「……何か華、楽しそう」
その事を指摘してやれば、また笑みが向けられて
小森は徐に岡元を抱きしめていた
「ちょっ……、華!?」
「だーい好き。タマちゃん」
唐突の事に驚くばかりの岡本へ
たたみ掛ける様に告白の言葉
突然に耳元で呟かれたソレに、岡本は瞬間耳まで真っ赤で
動揺に悲鳴を上げる
「僕がこうやってくっつくの、まだ慣れない?」
多少なり不手腐った様な声の小森
顔を近くに寄せられ、岡本は益々動揺しながら
「こ、こういうのって慣れるモノなの?」
つい問うてみる
小森は微かに肩を揺らしながら
「慣れてくれなきゃ。この先、ずーっとなんだし」
恥ずかしげもなく、小森は甘えた様な声色で呟く
何故、これ程まで自分を特別に扱ってくれるのか
その疑問につい小森をじっと眺め見れば
「何で私なの、って顔してる」
「え?」
思っていた事をズバリ言い当てられた
「……僕達がタマちゃんをこの寮に呼んだ理由、知りたい?」
「教えてくれるの?」
「いいよ。その代わり、明日の卒業式が終わってからね」
それまで秘密、と相変わらずな笑い顔
結局教えてはもらえないまま
岡本は食事を作るため台所へ
ソコで、平田と出くわした
押し殺したような笑い声と共に
平田の手が岡本の頭上で弾む
「ちゃーんと帰って来れたかよ。タマ公」
明らかに揶揄が込められた声
馬鹿が付くほど正直な岡本が返答に声を詰まらせれば
平田が益々笑う声を上げる

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫