《MUMEI》

二郎の背中を摩ろうとしたら睨みつけられた。

「だめだ。」

着物の方が俺を静かに威圧した。


「まるで、赤ん坊だ?」

学生の方は俺を挑発してくる。
この親子……!


「けふっ……」

噎せて、二郎の口の端から戻したものが流れていた。
勢いは無く、唾液くらいの僅かな量を少しずつ出すのを小刻みに続けている。
涙を浮かべながらのその仕種はちょっとエロかった。


「ちゃんと吐くために喉に指を突っ込んでおけばいいよな?」

何を行ってるんだ、この学生!

涙をぱたぱた零しながら二郎は皿に向かって吐き出す。


「……っえ、 ぅん、けほっ……」

白く長い人差し指が二郎の赤い下の上に運ばれ、飲み込まれてゆく。
肩を揺らしながら首を擡げ、皿へ流れる嘔吐物が背徳感を醸し出す。


「観客が見世物のようなショーだな。」

黒い着物の男の発言で正気に戻る。


『か、かんぱーい……』

楠が立ち上がってグラスを上げる。


『私、歌いますー。』

嫁が楠からマイクを奪い、歌いだした、鼓膜に響く大音量で、音が跳んでる……。


「もう、これくらいにして。」

怖い親子に一言添えて二郎を支えて出てゆく。
こんな、異様な空間に二郎を置いておけない。


「さあ、お二方もそろそろ……。」

綺麗な兄さんの二回叩く手拍子を合図に親子は席を立った。
一方的な嫌がらせを受けたようだ。

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