《MUMEI》
一人称
…幸せな時間っていうのは、何故こんなにも早く過ぎるんだろう?

今日は、ゲームセンターとやらに連れて行ってもらって遊んでいたんだけど、もう時計は22:48を指している。

まだ悠一と離れたくないのにな…。
僕は握られた左手を見つめながら、ただ黙って歩いていた。



「…なぁ、梨央」

「ん〜?何?」

「梨央ってさ、何で自分のこと"僕"って呼ぶの?」

「あ、それは、小さい頃お兄様達の真似して僕って言ってたのが癖になっちゃって。お嬢様っていうのも嫌だったし。…やっぱり変?」

「いや、変とかそういうんじゃなくてさ、家では私って言ってたじゃん。何で俺の前ではいいの?」

「だって、最初にバレちゃったし。それに…」

「それに?」



聞き返しても梨央は"それに"と言ったきり、口を開こうとしない。
でも、何も言わずに待ってやると下を向いたまま言葉をつないだ。



「…それに、安心するから」

「え?」

「安心して、素が出せるんだ」

「ふ〜ん。…じゃあ、梨央の素を知ってるのって俺だけなんだ」

「まぁ、そうなるよな」




僕がそう答えると、悠一は何故か嬉しそうに「そっか」と繰り返していた。
不覚にもその笑顔にドキドキしてしまったのは、絶対誰にも言わないことにしよう。

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