《MUMEI》 「フェル世界…に行くだけで良いんですか?」 「まさか」 山男は、座っていた何もない空間から立ち上がると、声を出しながら伸びをすると明智の方へ近づいてきて左袖を捲って見せてきた。 明智が何かと思ってのぞき込むと初めは変哲の無かった腕にうっすらと文様が現れ始めた。 それは薄い黄茶から段々と濃い深緑色へと変化して確実に山男の腕に存在感を増していた。 「うっ…」 山男が少し辛そうな声を出した後、その左腕にはほとんど黒い色になった文様が全容を晒し、さらに肘の少し上に突如丸い碧石を有したアクセサリーが現れた。 「…先生?これは?魔法…ですよね?」 「この文様は、俺が普段、力を用いて消しているんだ。久しぶりに出したら、さすがに痛かったな。見せていないんじゃなくて、皮膚の中に隠している感覚だから。」 「先生って、不良だったんですか…タトゥなんか入れて…」 山男はやはり困ったような顔で笑って丸い石をいじりながら反論をした。 「誰が不良だって?…これは、スレシルの証拠だよ。スレシルとして、力が目覚めると身体の一部に文様と、この石が現れる。こいつも肌にしっかり埋まっているから厄介で…服とかに引っかけるとめちゃくちゃ痛いんだ…明智にはまだ出ていないのか?」 「勝手に出てくるんですか?そんな目に付くようなものありませんよ。そもそも、そんなタトゥみたいなの身体にあるのばれたら周りになんて言われるか…」 「だから、俺は高校2年も3年も、夏服は長袖だったし、腕まくりもできなかったよ。あれは死にかける。」 山男は何か思い出したように遠くを見ながら首を振る。 「でも、先生、今消してたじゃないですか。」 「そう、消せるようになった。いや、完全に消せるようになるまで。それが、フェル世界に居なければならない期間だ。」 前へ |次へ |
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