《MUMEI》
VS 5 4vs1 !?
「で?アンタ達。結局のところ岡本さんに何も話してないわけ?」
卒業式も終わり、校内も漸く日常に戻った翌日
どうしたのか、突然に担任が寮を訪ねてきていた
中へと入るなりまるで自宅であるかの様にソファへと身を寛げ
その前へと四人へ正座して座る様言って向ける
「……透子さん。随分といきなりなご訪問ですが、一体どうしたんです?」
正座に辛そうな三人に代わり
桜岡が穏やかにその理由を問うていた
「聞いてるのは私なんだけど。それで?話はした訳?」
「話、ですか?」
何の事かが本気で分からない、といった様子の桜岡へ
担任・岡部 透子の眉間に明らかに深い皺が寄る
「……話して、ない様ね。このお馬鹿共」
眉間に寄せた皺はそのままに
無理やり引き攣った様な笑みを浮かべながら
手は拳に固められる
その使用用途は言わずもがな
何かを殴る鈍い音を、その直後岡本は聞いた
「痛ぇ――!」
そして岡部の喚く声
どうやらその拳の被害を被ったのは岡部だけの様で
余程痛かったのか、珍しく涙目だ
「何で俺だけなんだよ。このくそババァ!!」
「そんなの決まってるでしょ!あんたが私の弟だからよ!!」
「何だそれ、訳わかんねぇだろ!!」
「アンタ馬鹿じゃないの!?考えてみなさいよ!雪路とか華なんか殴ったりしたら可哀想だし、大吾なんて殴った日には何されるかわかったモンじゃないし!」
岡部を殴るのが一番安全なのだ、と最早理由になっていないソレを喚く
段々と収拾が付かなくなってしまい、岡本が慌て始めてしまう
十年前に一体何があったのか
ソレさえ岡本が思い出せれば全て丸く収まると
こめかみを指で押さえ考える事を始める
「それにしても」
考える岡本の傍ら
小森が徐に話す事を始める
岡本の髪に手を触れさせ
「今回の大吾のいたずら、本当に可愛かったね」
小森が岡本の傍らへと腰を降ろしながら
外す事を忘れていたのか、残っていたらしい髪結いを取ってやった
「華……」
「そろそろネタばらししちゃおうかな。タマちゃんの眉間に皺が残ったりしたら大変だしね」
岡本の眉間を指でほぐしてやりながら小森は笑い
そして話す事を始めた
「タマちゃん、この髪留めとか、見覚えない?」
「見覚え……?」
ソレは岡本も感じてはいた
改めて小森の手の平に乗せられているそれらをまじまじ眺めてみれば
突然に小森の手が岡本へと伸ばされ
そして髪を二つに結わえ始めていた
「ほら、見て。これで十年前と同じだよ」
姿身で全身を見せられ
その姿に、岡本はうっすらとだが思い出す事があった
この学園の初等部にいた頃の事
道に迷っている幼い頃の自分
そんな自分を傍らで宥めてくれている四人の事を
「……あの時」
「思い出してくれた?」
「……皆、だったんだ。じゃ、私を此処に呼んだのって……」
「約束、したから。あの時」
「約束?」
ソレは一体どんな約束だったのか
何とか思い出そうと、唸り考えこんでいると
「これ、開けてみて」
小森から一通の手紙が渡された
中を見てみろ、と促され封を開けてみる
その中には
「……誓約書?」
幼い文字でそう書かれた古めかしい手紙だった
其処には
十年後、高校卒業と同時に四人の世話をするという旨が書かれており
最後には岡本 環としっかりとサインすらしてあった
『私が、オジちゃん達のお世話、してあげるんだから!』
涙混じりの笑みを浮かべ、そう約束をする自分
漸く、何故此処へ呼んでもらえたのかが理解出来た
「思い出してくれた?」
小森に顔を覗きこまれ
向けられたその笑顔はその時と何一つ変わってはいなかった
「思い出したよ。全部」
満面の笑みを四人へと向けてやれば
「ま、あん時は二十歳そこそこでおっさん呼ばわりされるとは思ってなかったがな」
相も変わらずな溜息を岡部はついて
ソファへと腰を掛けていた岡本の横へと腰をおろしてくる
ソレを合図に桜岡・平田もソファへ
「いーんじゃねぇの?トラ、昔っから老けてたもんな〜。タマ公が間違うのも無理ねぇっての」
「大吾。それは流石に高虎がかわいそうではないですか?」
「事実なんだから別にいいだろうが」
岡本を取り囲み、騒ぐ事を始めた
「ちょっ……皆」
「皆ばっかりずるい!僕も混ぜて!!」

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