《MUMEI》
傷ついた絆
時間が止まっているように見えた。


この空間には榊原と先輩、
俺しかいないように感じられる。


「これでコイツも終わりだな。」


先輩を見下ろす榊原。


残酷な言葉に怒りを覚えてもいいはず。


なのに俺は、
不思議とその感情は生まれてこなかった。


変わりに出て来たのは切なさ。


口調こそは残酷だが、
榊原の表情は悲しみに染まっていた。


意識の無い先輩の体を突き放すでも無く、
両手でしっかりと支えている。


どこでだろう。


どこで間違ったんだろう。


2人には言わずとも深い絆が感じ取れる。


俺の頬に一筋の涙が伝った。


やっぱりこの2人は望んでこんな仲になったんじゃない。


「榊原…さ…ん。」


歪んだ視界の中で、
榊原はこちらを向いた。


「…!?」


榊原は泣いていた。


そして再び先輩を見る。


「お前が…お前が悪いんだ。」


まるで自分に言い聞かせるような言葉。


俺はその光景を黙って見つめるしか無かった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫