《MUMEI》
3 ドウヨウ
 「最近、やっぱりテメェ何か変だよな」
翌日、一体どうしたのか
突然に店を訪れた高見
特に何を買う訳でもなく、入るなり訝しげな顔を畑中へと向けて見せていた
「変って、何の事かしら?」
その高見からの指摘に、思い当たる節が無いわけではない
だが、認めたくはなく
ついはぐらかす事をしてしまうと
高見は微かに溜息をついていた
「ま、俺には関係ないんで別にいいが――」
「ねぇ、高見」
言葉途中にも構わず高見へ
遮る様に話を割り込ませてやれば
益々訝しげな表情が向けられた
「何だよ?」
「私って、今どんな風に変な訳?アンタから見て」
自覚のないソレを問うてみれば
高見は暫く考えこみ
そして僅かに肩を揺らしながら
「化粧のノリが悪すぎて悲惨な面になってる」
「あら、そうかしら?」
「まぁ、何に悩んでんのかは知りたくもねぇが。あんまり悩み過ぎると早々に禿げるぞ」
「心底どうでもいい忠告どうもありがと。そろそろ帰ったら?折角の休日でしょ」
さっさと帰れ、と手を振って返せば
高見はそれ以上を言う事は無く店を後に
一人になった店内
誰も居ないのをいい事にカウンターへと乗り上げ脚を組むと
「相変わらず鋭いな。あいつは」
畑中は自嘲気味に肩を揺らす
実際、小林を自宅へと住まわせるようになってから、畑中自身苛立つ事が多くなっていた
良い変化では決してないが、高見からの指摘は間違いではない
「……一体、どうすりゃいいんだか」
結局、小林はあのまま畑中宅へと居付き
だが畑中と顔を会わせる事は滅多ない
小林がうまく避けているのか
同じ屋根の下に居ながらこの一週間、顔を見たのは一、二度程度だ
「本当、どうすればいい?俺に何を望んでる……?」
考えても出ない答えに更に苛立ちカウンターから飛んで降りる
今のこの距離感を敢えてモノに例えるとすれば
決して引きあう事をしない、同じ極を向いた磁石だ
近づけば近づくほどに
だがその距離が近づく事はない
別段、その事に興味・関心など持たないはずだった
避けたければ避ければいい
拒絶したければすればいい
そう、思っていた筈なのだが
ソレを不愉快に思う自分が、何故か居て
それが畑中を酷く苛立たせる
考えばかりがまとまらず
畑中は早々に考える事を止めてしまっていた
「何所かに、お出かけか?」
微かに物音が聞こえ、そちらへと向いて見れば
小脇にバッグを抱えた小林が出入り口のすぐ傍
畑中の問い掛けに一応脚を止め、そして
「帰る」
それだけ言うと店を後に
しようとした、次の瞬間
「……帰るって、何所に帰る気だ?」
帰れる場所など無いだろう事を示唆してやれば
だが小林からの返答はない
「……テメェには、関係ない。いいから退けよ!」
小林の方も段々と苛立ってきているのか
持て居た荷を畑中へと向け牽制するかの様に振り回し始めて
ソレが店内にある棚へと当たってしまい
その棚のモノ全てが崩れ始め
二人へと降ってきてしまう
畑中は派手に舌を打つと、咄嗟に小林の腕を引きよせ
落下物から小林の身を庇っていた
「狭い店なんだ。いきなり暴れるな。馬鹿が」
「うる、せぇ。退けよ――」
罵声の最中に小林は畑中を睨みつける
視線が漸くまともに重なった、次の瞬間
床に一滴、赤い水滴が落ちたのを見
小林の眼が僅かに見開いていた
どうやら落下してきた何かで畑中は瞼を切ってしまったらしく
だが当の本人はさして慌てることもせず
至って冷静だった
「……お前、ここ片してろ。医者行ってくる」
都合よく近くあったタオルで傷口を押さえながら
畑中は短くそれだけを伝えると踵を返す
驚いたのか、座り込んだまま呆然とするばかりの小林へ一瞥すら向けず
溜息をつきながら家を出ていた
近所の診療所にて診てもらえば
出血の割に傷口は深くない、と手早く処置を施して貰い
畑中は早々に帰路に着く事に
「……何か、草臥れた」
一人言に愚痴りながら深々と溜息を吐けば
目の前に、見覚えがあり過ぎる人影を見た
「……和志、どうした?その傷は」
その人物は、父親
畑中の傷を見るなり訝しげに表情を歪めてくる
だが畑中は何を返す事もせず

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