《MUMEI》

翌日、父さんと一緒に、向かった場所は

公証人が居る役場だった


何だろ?


重々しい雰囲気だ


父さん、無口だし


係の人に呼ばれて部屋に入った父さん

俺、廊下で待ってたんだ


1時間近く、待ってた


父さんと、母さんが並んで歩いて来たんだ

母さん、下を向いてた


母さんを見るのも久々だった

少し、窶れた感じに見える母さんだった


翔太 「…」

長椅子から、立ち上がった俺に

母 「翔太、東大に合格した んだってね」

「父さんから聞いたわ」

「おめでとう」


翔太 「うん…」


母さん、作り笑いだよ

何があったんだろう?


父 「翔太、もう一カ所、付 き合ってもらうよ」

翔太 「うん…」

父さん、優しい口調だったけど

恐いぐらい真剣な目をしてたんだ

……

都内のホテルの喫茶店で、誰かを待ってた

重々しい空気の中
俺、黙って珈琲を飲んでたんだ


スーツ姿の男が来た

オールバックで、いかにも金持ちそうな人だった


俺達が座ってるテーブルの横まで来た、その男は

「用件を聞こうか」

と、言ったんだ


父 「場所を変えよう」

父さんが立ち上がったんだ
……

ホテルの会議室みたいな場所に移動した俺達

俺、黙って、父さんと、その男のやりとりを聞いてたんだ


…父さん

母さんと再婚したいんだ


この、佐藤って言う
オールバックの男が、母さんの彼氏かぁ…


母さん、この、佐藤って男の、連帯保証人になってたんだな

父さんが、全額肩代わりして支払いしたんだ

それで、さっき役場に行ったんだな


佐藤って男が感情的になってた

母さんは、黙ったままだ


佐藤が父さんの襟首を掴んだんだ


翔太 「見苦しいよ、佐藤さ ん」


俺、少しイラついてたんだ
口を挟むつもりなんてなかったんだけどね

大人の会話に


翔太 「手を離せよ…」

「殴りっこするなら、俺、 黙ってないよ」


佐藤 「…ガキの前で話す話 しかよ…」

父 「私の息子だ」

「どんな話しでも、恥ずか しいとは思わんよ」

佐藤 「…けっ、ガキに生意 気言われる覚えなんか無 いね」

そう、ほざきながら
父さんを突き飛ばすようにして、手を離した佐藤


父さん、苦しそうに、息をしてた

翔太 「生意気、言われても 仕方ないだろ?」

「佐藤さん、あんた、事業 に失敗したんだろ?」

「結果出せなかった奴なん か、敗者だよ」


佐藤 「…」


佐藤が俺を睨んだんだ


翔太 「暴力で解決するって のなら、俺、参戦するよ」
「俺、生き死になら、佐藤 さん、アンタより、修羅 場潜ってるから…」


母さんが俺を見てた


父さんが、母さんに聞いたんだ

どうするか?って


母 「…佐藤さん」

「私は、もう、貴方とは、 ……」

「私は、私で生きて行きま す」


佐藤 「…金か…」


母 「どう、思われても結構 です」

「私は、結論を伝えてるん です」


佐藤 「…わかった」

「…じゃぁな」


母さんが立ち上がり

佐藤にお辞儀をしたんだ

……

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