《MUMEI》

舌を全て搦め捕られるようなキスで、総毛立つ。

「…………あっ」

口が開いたせいで、噛み締めていた奥歯が緩み声が出る、ぼくは必死にバスタブの縁にしがみついて、沈まないようにした。
その間、器用に鳥さんは衣類を脱ぎ捨てていた。

鳥さんがバスタブに沈んで来て、湯舟が溢れ出す。
肩と腕に、背中の鳥が染み出している、薄目で覗き込むと無表情で、少しだけ傷付けた顔をしていた。


「くっそ……!」

鳥さんは一度湯舟に頭から潜水し、ぼくの背中に鼻を擦り付けてから浮かんできた。
指先で水滴を拭う。
触れてはいけないような気がして、体ごと縁にしがみついた。
胸を叩く心音で自立できないからだ。

その時、「彼」という一人称がぼくの中で嵌まった。
彼の肌は腕が焼けていて入れ墨との境目が出来ていたが、水滴は万遍なく弾いてた。
逆光は彼の健康的な体躯を強調して、影は貧弱なぼくを覆い隠す。

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