《MUMEI》 底無しの沼. ―――週明けの月曜日。 わたしは、駅のプラットホームで電車を待っていた。 朝の通勤ラッシュの時間の為、ホームにはたくさんの人が列をなしている。 ぼんやりと、真っ直ぐのびる線路を眺めていると、バッグの中にある携帯が震え始めた。 ゆっくりと携帯を取り出し、ディスプレイを眺める。メールを1件、受信していた。 ぼんやりとした思考の中で、わたしは携帯を操り、そのメールを開く。 ****** from:タカヒロ sub :件名なし ―――――――――――― おはよう。 金曜は飲んでた? ちゃんと帰れたの? 心配したぞ。 ****** 待ち焦がれていた隆弘からのメール。それはやっぱり月曜になってから、返事が来た。 『心配した』なんて、見え透いた嘘を…。 憤りに似た感情を必死に抑えながら、わたしは深くため息をついて、それから携帯のキーを打ち始めた。 ****** to :タカヒロ sub:Re: ―――――――――――― おはようございます。 ちゃんとお家に帰りましたので。ご心配なく。 ****** 物凄いスピードで文章を作り、早々とメールを送り返すと、さっさと鞄に携帯をしまった。両手が空いた腕を組み、また深いため息をこぼす。 無性にイライラした。 隆弘にとって、わたしはどうでもいい人間なのだ。そこに居ても居なくても、彼の人生は何も変わらず、些細な影響を与えることもない程、ちっぽけな存在。 それが惨めで、わたしは自ら彼に『サヨナラ』したのだ。 ―――なのに、 隆弘は、引き留めた。 『戻っておいで』、と。 例えわたしが戻ったとしても、全部を受け入れる心の隙間もないクセに。 …無責任な男。 心の中で毒づいていると、そのうち電車が到着するアナウンスがホームに響いた。電車が近寄る、唸り声に似た騒音と振動を感じて、わたしはゆっくり顔をあげる。 遠くからゆったりと滑り込んでくる電車を眺めているわたしの身体を、強い風が一筋、通り抜けていった。 . 前へ |
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