《MUMEI》
マリア
「ここでは、お前らのランクごとに受け付けられる仕事が決まっている。
Dランクから始まり、Aランクが最高ランクだ。」

そこで後ろから3人の女性が、紅いカードを叶恵達に配り始めた。

3人の女性たちは、それぞれとても似ている受付嬢の三つ子だ。
声も顔も体格も
瓜三つ。
唯一違うのは性格のみで、一人ひとりを見た目だけで判断するのは至難の業だ。

「どうぞ、叶恵さん。」

と、叶恵にカードを渡してくれたのは三つ子の中でもっとも礼儀正しくいつも冷静な芦高 澪李《あしたか みおり》のようだった。

「ありがとうございます。」

言うと、澪李はにっこりと上品に微笑み前にも同じように配って行った。

「ランクはお前らの実力次第で上がる。
実力がないような者はここにはいらない。
見込みのない奴は、即刻首を切らせてもらう。
まぁ、そんな奴なら俺が手を下す前にオーダに喰われるだろうがな。」

総勢48名が沈黙する。

後ろでは先輩のクラージマンのクスクスと笑う声や
「また脅してるよ。」「相変わらずだな。」という声がぽつぽつ聞こえてくる。

弐位宮はいっそ楽しんでいるような笑みを浮かべていた。

「まぁ、せいぜい頑張ることだな。
俺はお前らの安全責任者だが、お前らのランク以上の仕事を受付ないよう取り締まるのが仕事だ。
お前らのことを守れとは言われていない。・・・お前らが仕事中死のうがなんだろうが、お前らの責任だ。」

今度は本当に沈黙がロビーを満たした。
少しの時間が経った。

「話は以上だ。
仕事は受付でそのカードをスキャンしてから受付ること。」

弐位宮は最後にそう告げるとその場から去って行った。

ロビーにも元の話し声や作業音が聞こえてきた。

新入り47名もまたそれぞれ散って行った。

叶恵はしばらくマリア像を見ていた。
大きな翼を広げ両の手を合わせたその女性は、優しく微笑んでいる。
女性は、白い石で彫刻されているが、
翼は透き通った透明な水晶で
規則正しく
精密に作られていた。

「不安?おじょーさん。」

先輩だろうか。
ニット帽をかぶった少年が、立ち尽くす叶恵に話しかけてきた。

「えぇ。まぁ。」

「あはは。
弐位宮も相変わらずだよね。
ほんと。人を脅すのが好きなんだから。性格わりぃの。」

ふと、その少年はさっきの叶恵のようにマリア像をみた。

(すごくきれいな顔してる人だなぁ。)

彼のニット帽からは、真っ赤な赤毛がのぞき高い鼻に大きく海色の瞳。
やんちゃそうにゆがんだ口が印象的で、男前とは違うがそれなりに魅力的な顔立ちだ。

「でもあんたならダイジョブだよ。」

「? 何でですか?」

少年はいたずらっぽく笑った。

「俺、結構鼻が利くんだよねぇ。
ま、所詮ただの勘だけど、あんたはどんどんこれから伸びる子だと思うよ?
今はまだまだだけどねぇ。」

「はは。そうだといいんですけど。」

「そうだといいね。」

少年はにっこり笑うと両手で後頭部を支えるみたいな格好でいってしまった。

(いい人だったな。)

叶恵が受付に行くと三つ子の誰かが叶恵に笑いかけた。

「叶ちゃん。受付する?」

「うん。おねがい澪華ちゃん。」

どうやら、一番やんちゃっこの澪華《みおか》のようだ。

澪華は叶恵のカードを受け取ると、それを二つに裂けた機械にスライドさせて叶恵に返した。

「じゃぁ、叶ちゃんのパスコードは―」

「パスコード?」

叶恵が首をひねる。

「自分のデータを他人に見られないようにする鍵。」

澪華の隣にいた三つ子の一番おとなしい澪貴《みおき》が言った。

「そ、だから忘れちゃだめだからよく聞いてね。長くないから。」

「うん。」

「まず、3・・・1・・・1・・・0・・・覚えた?」

「3110」

「そう。で、そのパスコードをあっちのパネルに入力すると今日の受付ができるよ。」

「わかった。ありがと。」

すると澪華はすごくうれしそうにわらった。

「どういたしまして!
・・・あっ!そうだ叶ちゃん!」

立ち去ろうとした叶恵を澪華がひきとめた。

「ここで出勤手続きしないと受付できないから来たらまずここでスキャンしてってね!」

「はいよ!」

「それと頑張って帰ってきてね!!」

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