《MUMEI》

 天気も晴天の、休日の早朝
「今日もいい天気です」
降り注ぐ日光に笑みを浮かべながら
九重 鈴は洗濯籠を抱え庭先へと出ると
其処にある物干し台にて洗いたての洗濯物を干し始め居た
「今日のお昼ご飯は何にしましょうか?」
手は洗濯に動かしながらも、考えるのは食事の献立
中々いい案が思い浮かばす、取り敢えず選択を終えると
庭からよく見える居間にて子供たちと眠りこけている亭主・九重 智一の姿が目に映る
「智一さんに、聞いてみちゃいましょう」
その微笑ましい光景に笑みを浮かべながら
鈴は九重の元へ
向かおうとした、その道中
「……そこの御婦人!助けてはもらえないか!?」
脚元から妙に堅苦しく、だが若干慌てている様な声が聞こえる
鈴は小首を傾げながらその声の方を見やった
そして、そこにあったのは
「……ネコさん、ですか?」
何故か土から首だけを出し、そこに咲いている状態にある猫だった
しかも、その頭には何かの花が咲いていて
助けてくれ、と再度懇願された
鈴は何の迷いもなく、その人語を操る猫を引っこ抜いてみれば
「わっ!」
弾みで鈴は尻もちをつき
その痛みに顔をしかめていると
その猫らしきそれが近く歩み寄る
「大丈夫か?御婦人」
「は、はい……」
「突然驚かせてしまて申し訳ない。我は(くさ)と申すもの。怪しい者などではないので御安心戴きたい」
まるで時代劇に出てくる侍の様な口調のソレに
鈴は暫く眺め、そしてそれを抱え上げると小走りに家の中へ
向かったのは居間
其処で未だ寝こける九重を、鈴は起こしに掛った
「智一さん、起きて下さい」
すん体をゆすぶり、起こしに掛れば
存外早くにその眼は開く
その瞬間を狙っていたかの様に
鈴が顔の間近へと問題のブツを寄せて見せた
「……鈴」
「はい?」
「……一つ、聞いてもいいか?」
「はい」
「コレ、何だ?」
鈴に抱えられたままのソレを指先で突いてみれば
「ご、御婦人の御亭主とお見受けする。我はくさと申すもの。決して怪しいものでは……」
やはり堅苦しい声が返ってくる
「二足直立で人語を喋くる猫のどこが怪しくないって?」
つい突っ込んでやり、九重は頭に咲いているその花・くさを徐に掴み上げていた
「な、何をする!?」
「いや。接着剤かなんかでくっついてんじゃねぇかと思ってな」
「そんな訳ないだろう!これは自毛だぞ!!」
果たして花を髪の毛と認識してもいいのかは謎だが
どうやら本当に直接生えているらしく
その現実離れな目の前の現実に
九重は深く溜息を吐いてしまっていた
「……で、テメェの目的は一体何なんだ?この地球外生命体」
取り敢えず現実逃避は後に置いておくとして
九重はその目的をそのくさへと尋ねてみる
するとくさは頭の花を何かの主張か、九重へと向け大きく開いて見せながら
「いや、地球の日光は健康に良いと小耳に挟んだもので」
「何だよ、その訳わかんねぇ情報は」
結局は何物かは語られる事がなく
一向に進む事をしない会話に、九重は早々に飽いていた
「……鈴。これ、元あった場所に戻して来い」
花を掴んだまま鈴へとまた渡してやれば
「どうしてですか?」
寂しそうに鈴は小首を傾げて向ける
どうにもその表情に弱い九重
お願い、と駄目押しに強請られてしまえばこれは最早、九重が折れる他無い
「……本当、仕方ねぇな」
「智一さん?」
溜息混じりに呟いた九重へ
鈴が首をかしげて向ければ
徐に、九重は鈴の頭に手を置いた
「気を付けて飼えよ。危なくねぇとも限らんから」
鈴には笑いながらそう言ってやり
そして九重はまたくさの花を掴み上げながら
「……妙な事しやがったら、除草剤ぶち撒くぞ」
覚悟しとけ、と睨みをきかせていた
「……しょ、承知したぞ、主殿!」
「本当だろうな?」
「も、もちろんだ。この眼が嘘を付いている様に見えるか?」
真横一文字の様に細すぎる眼を示され
九重は眉間に明らかな皺を寄せる
「……そんな糸みてぇな眼えしやがって何抜かしてやがる!この地球外生命体!」
「む!それは失礼だぞ御亭主殿!」
その憤りは地球外生命体と呼ばれたことへなのか

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