《MUMEI》 会場の中は狭く、奥には一段高くなったスペースに教卓のような机とマイクが置かれてあった。 聴講者たちはその前に並べられたパイプ椅子に適当に腰を下ろしていた。 ユウゴがケンイチの姿を探すと、彼は前から二列目の真ん中辺りに座っていた。 近すぎる、そう思ったが会場自体が狭いのでどこに座っても近いことに変わりはない。 中途半端に後ろ過ぎても障害物が無駄に増えるだけだろう。 ユウゴはケンイチの後ろへ行くと静かに腰を下ろした。 周りには一席飛ばしに四、五十代の男女が座っている。 老人や三十代ほどの者の姿も見られたが、すべて合わせても、数人程度しかいなかった。 後から会場に入ってきた者も、ほとんど後ろの席を埋めていき、ユウゴの周りは適度に空間ができていた。 ユウゴは腰に感じる銃の存在を確かめながら、ケンイチの様子を見つめた。 今までの出来事からケンイチは非常に攻撃的で、言動にブレーキが効きにくい性格だということはユウゴにもわかっている。 つまり、一度キレてしまうと何をするのかわからないタイプだ。 はたしてユウゴが動くまで我慢することができるのだろうか。 そんなことを考えていると、ケンイチの頭が不自然に揺れ始めた。 前後左右にゆっくり揺れている。 不思議に思って少し身を乗り出して覗いてみると、彼は腕を組んで目を閉じていた。 「寝てんのかよ」 呆れて呟いたユウゴの声に応えるように彼の頭がカクリと揺れた。 前へ |次へ |
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