《MUMEI》
傷跡
「彩詩・・姉さん・・」
痛みに顔を歪めながら声を出すリース。フラフラと立ち上がり、槍を拾う。
夜霧を血塗れの右腕で構えて立つ彩詩。顔は青ざめ、今にも倒れそうな体。
「こんな所で・・死ぬ訳には・・・」
苦しげな呼吸をしながらリザードマンへと攻撃を仕掛け続ける彩詩。
口腔内に残った肉片と鎧の欠片を吐き出し嬉しそうに顔を歪めるリザードマン。
「リー・・時・・私が稼・・から。」
彩詩は小刀で受け止め防御するが、その上から力で押し切られ傷を負っていく。白かった顔は血に汚れ、鎧は赤黒く染まり、ソレを覆い隠すかのように鮮血が流れ落ちる。

(マモレナイ・・マタ・・ウシナウ・・・コワイ・・コワイ・・)
姉の姿がフラッシュバックする。体が恐怖で竦み、眼を背けたくなる。頭の中が恐怖に塗り潰されていく。
「・・・フザケルナ・・フザケルナ・・」
自分に言い聞かせるように呟く。魔力は残っていない、痛みなどすでに無くなった。
「リース・・だけ・・も・・逃げ・・・・い」
途切れ途切れに聞こえる彩詩の声。壁に叩き付けられ、立つことさえできないようだった。
ヒタリ、ヒタリ。
足音を響かせ、ゆっくりと彩詩に近づくリザードマン。
(シ・・シ・・死・・死・・)
足が震え、座り込みそうになる。
「ふざけるな!ココで・・逃げて・・なんになる!!」
リザードマンが彩詩に向かって腕を大きく振り上げた姿を見た瞬間、感情が爆発した。
「ああああああああああ!!」
技も速さも無い突き。
容易く受け流され、倒れそうになる。
リザードマンの爪がリースの体に突き刺さり、振り払う動作で壁に叩きつけられた。
リザードマンが彩詩の首を狩ろうと爪を振りかざす。
「やめ・・・て・・・」
掠れた声、目の前が暗く染まっていく中で、槍の穂先が蒼色に見えた。

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