《MUMEI》 迷子の狼狼はまだ、わずかに息があった。 しかし光に負わされた傷はひどく、地面にたたきつけられたせいで白い毛は所々赤い。肋骨の二、三本はいってるだろう。 ふと、光のあの無表情な瞳が思い出された。 「また・・・。」 また光に押しつけてしまった。 叶恵は、一回は納めた得物をまた引き抜くと刃先を狼の腹部に垂直に突き立てた。 「ごめんね。」 叶恵は息を大きく吸う。 「我らの神よ。どうか、この罪のない命をお引き留めください。己に傷を癒す神聖なる力をお与えください。」 刃先がポゥと明るく輝きだした。 それに連動するように狼の体も輝きだす。 「ハァ…ハァ・・。」 だんだん叶恵の息が上がり初めた。 しかし一方で、狼の体にうっすらと見える赤い傷口が消えていくのがわかる。 「紀羅!!」 木々の間から悲鳴のような声が響いた。 光がまた影から飛び出し、体を低くして臨戦態勢にはいると、長い髪を一本引きぬいた。 すると、その髪はみるみるうちに硬質化し鋭い刃物になった。 「光、待って!」 叶恵は狼の治療を続けながら木々の間に注意を向ける。 汗がじわじわと全身から噴き出すのが分かる。 光は、そんな叶恵をいつもと変わらない無表情な瞳だけを動かして見ていた。 「っ!!!」 突然、一人の少女が叶恵に小さな刃物を向けて突っ込んできた。 ガキン!とその短剣とアリアの羽が衝突する。 叶恵は治療をやめ、そのまま空中を高く舞い距離をおく。 「グルぅぅぅ…」 少女は狼の上にまたがり光のように体を低くして短剣を構える。 光が少女と叶恵の間に滑り込む。 叶恵は歯噛みした。 『クラージマンは、生命を滅してはいけない』 それは、母に言われた言葉だ。 クラージマンになるとき誓わされた。 光はそれに付き合わされている。 「紀羅・・紀羅!!」 「しるら?」 呟いた叶恵を少女がギッと睨んだ。 「紀羅に何をした!!」 狼を見る。よかった。 狼の傷は、ほとんどが癒えていた。 「答えろ!!!」 少女が怒号を飛ばす。 「・・・攻撃したが いまはもう傷は塞がっている。」 “攻撃した”と言った瞬間、殺気が少女から爆発するように発せられたが、 “傷はもう塞がっている”と言った瞬間によくわからないと顔に出ていた。 「グラぅ・・・!」 「!?」 しかし、次の瞬間には少女は狼に変貌していた。 前へ |次へ |
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