《MUMEI》
.day1-02
「問題無い。任務に差し支えは無い。本日より六日の後に、この刀で対象から奪命する」
 彼は腰に差した大剣に手を当てながらそう言った。死神の持つ日本刀そっくりのその特殊な刀で人間の命球(鳩尾の辺りにある)を貫くとその者の寿命を尽きさせることが可能なのだ。ちなみに死が近づく程その命球は光を徐々に失いゆき、完全に光が消えた時その者の寿命とされる。勿論煉にも早姫にもその命球は無い。大昔に壊れてしまった。
「……だといいんだけど。煉、けっこうお節介なところあるから。必要以上に対象と仲良くなったりとかさ」
「そのくらいの特権が無いとこの仕事、俺は続けられないと思う。人を殺してばかりなんだからな。初めの頃は本気でうなされたんだぞ」
「だから、死神なんでしょ」
 早姫は可愛らしい声で実に身も蓋も無い言い方をする。正論ではあるのだが、その突き放した口調に煉は少しむっとする。
「そんなこと言ってると……みかん、もうやらないぞ」
「……卑怯者!」
 早姫は猫のくせにみかんとかいう柑橘系の代表格的果物が好物なのだ。いやまあ、本性は猫ではなく、猫というのは仮の姿なのだけれど。現在そのような姿を取っているのは少しばかり事情があって――
「そろそろ散歩は終いにするか。どこか野宿できそうな所は……」
「できれば屋根のある所がいいね。この時期、梅雨≠ニか言って雨が降り続く季節らしいから」
 現在は六月の初頭。梅雨入り初めの時期である。しかし、いつもながら無茶を言うな。
 とも思ったのだが、
「案外無茶でもないかも知れない」
「何のこと?」
 煉の目線の先には児童公園、そしてその中にある土管。
「……あそこは浸水してきそう」
「どうしろってんだよ」
 結局早姫は代案を考案出来ず、その日の公園野宿が確定したのだった。明日になったら、もっといい寝所探してやるから今日のところは我慢しなさい。


 六月三日、日曜日、曇り。
 今日の空模様は余り芳しくなく、一日中曇天だった。そろそろ雨も降り出すかも知れない。いよいよ梅雨の到来か。猛暑の夏よりもむしろそちらの方が辛かったりするのだが、徒歩通学な分まだマシだということにしておこう。
 ところで今日の部活も一段と熱が入っていた気がする。特に女子のあいつの気迫には目を見張るものがある。こないだの県高校総体で惨敗したのが余程悔しかったのだろうか。現在の部活は男女別だが、それでいてかなり気になった。男子部部長だから、だけなんだろうか、この気持ちの要因は。
 今月末には一学期期末考査も待ち構えている。ある意味では俺にとっては高校総体以上の山場であると言える。学校生活を続けるに当たって。あいつの成績はいいそうだ。俺とは比べられないくらい。
 明日になったらこの気持ちの正体が解るだろうか。明日になったら、あの曇り空の隙間から太陽光が差し込むのだろうか。俺の明日を照らしておくれ、太陽よ。

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