《MUMEI》
狼と狐と吸血鬼と恨み
(喰われる・・・!!)

そう思った。

しかし、その予感は意外にも外れた。

光も、もう動いていた。

オーダに向かって・・・。

「オーダ!!」

しかも空を埋めつくほどの数がここに集結している・・・!!

叶恵は自分の目を脳を耳を、疑った。

(だって、オーダは人の恨みなのに)

人のいない、つまり恨みの源がいない場所にこんなにたくさんいるのは異質。

異例だ。

思考のないオーダはこんな意図的に集まることはないのだ。

叶恵はこの仕事の、あの噂の意味が分かった気がした。

「クぅー・・・」

後ろで意識を取り戻した狼、紀羅が苦しそうにうなった。

でも今はそれどころじゃない。

この中でオーダを倒せるのは叶恵だけだ。

叶恵は得物を握り直す。

「初仕事なのに大変だぁ・・・。」

一匹のオーダが叶恵に向かって飛んできた。

大きな烏のようなシルエットに悪魔のように長い尻尾。目はなく大きく裂けた真っ赤な口が叶恵を引き裂こうとする。

「はあぁああぁあぁぁぁぁぁああ!!!」

自分より少し大きな大剣を横凪に振るう。

空気を大剣が引き裂き、そこから風が見えない刃となって
オーダを真っ二つに切り分けた。

オーダは音もなく黒い霧となって消滅した。

光はいつもははえていないコウモリのような羽を使い空中戦に挑んでいた。

「光!!!!!」

光は素手で戦っていた。

マリア、アリアの羽でない剣で切り裂くとオーダはそこから二匹三匹と増えるのを知っているからだ。

それでも、光はオーダの二、三匹の尻尾を右手持って片手で戦っていた。

口からは黒い液体が少しこぼれていた。

吸血鬼。
だから彼女は血を吸う。

また一匹、光はオーダに流れる恨みの血を飲み干した。

一時的だがそのオーダは、もう動かない。

光は黙ってそのオーダを叶恵に投げた。

「雷神降臨!!」

雲のない空から突如騒音と共に雷が落ち、光の投げたオーダと他数匹のオーダを貫く。

「ギャイン!!!」

狼と化した少女が悲鳴をあげる。

叶恵は向かってきたオーダを足場に、空中を舞う。



狼は多くのオーダに囲まれていた。

あちこちから襲いかかって来るオーダを蹴る。

オーダの作りだす風は狼を浮かせていた。

叶恵もその中心に入り込む。

「くそ・・・っ」

狼は悔しそうに呟いたが、叶恵をみると少し驚いた顔をした。

「なんで・・・?!」

叶恵は周りのオーダを片っ端から切り倒す。

「あはは。やっぱり喰おうとしたんだ。」

「・・・。」

「大丈夫。私たち敵じゃないし、それに紀羅を攻撃したのは“じゃれ”てただけ。」

また風の刃を作る。
適当でも必ず当たる。

「まっ、今のところは安心していいよ。どっちみちこれを倒さないといけないんだから。えぇっと・・・」

「栢。」

栢《かや》は笑った。

「私は叶恵。」

「紀羅が迷惑かけたね。」

「“じゃれ”てたの。」

「へへ。よろしく。叶恵さん。」

「うん、でも今はこっちが先。」

切っても切ってもわいてくる。

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