《MUMEI》

「どこ行ってたの……」
電気も点けずに静流が部屋に居た。


「なんだ、静流……電気くらい点ければいいだろ。」
悪寒を掻き消そうと樹はスイッチに手を伸ばす。


「心配なんだよ……。」


「大丈夫だから、静流は勉強してたのか?」


「塾、この間サボっちゃった……楽しかったけど全然駄目……、なんか違うみたい。」
仕事詰めで留守がちな母親のせいで静流には無茶をさせてしまったようだ。


「静流、おいで。」
手招きして、居間のソファーに座らせる。


「……遠くに行ってしまってるみたいで淋しい。」


「静流は勉強好きで頭も良い、努力もする。頑張りすぎちゃうから……あまり眠れてないのか?」
静流の目が充血していたことを見逃さない。


「今日はついさっき、起きただけ。深夜に何回か目が覚めるんだ。」
樹は内心、アラタを招いたことを気付かれず安堵していた。


「……大丈夫、ゆっくり目を閉じてごらん。」
樹は昔々、よく眠れない時にしてもらったまね事をする。
囁いて、瞼を掌で覆う、信頼してる相手だとそれは催眠のようだ。

静流は病院で薬を処方してもらう数年前までは、不眠症により不安定になってヒステリーを起こしていた。
今は落ち着いているが、なるべく環境を変えないように、負担をかけないようにと医者に言われている。
眠れなくなったら薬を処方してくれるとも言われた。

この家を守るのは俺だ。
そして、あの人を…斎藤アラタを守るのも。

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