《MUMEI》
うざい
 どう反応しようか戸惑っていると、彼女は苛立ったように「ねえ」と声をあげた。
「え?」
「なんか用なんでしょ?こっち来れば?」
いきなりの喧嘩腰だ。
 無性に腹がたち、タイキは仕返しにと端末を取り出し、カメラモードにして素早くシャッターを押した。
彼女は気付いていないようだった。
そして、彼女の前へ移動して、昨日のように隣に腰を下ろす。

 何か文句を言ってやろうと、あれほど固く決意したと言うのに、いざ彼女の前にくると何も言えない。
それほど彼女には、何か威圧感というものがあった。
「で?なによ?」
「いや、別に」
「あっそ」
彼女は興味なさそうにそう言うと、ボーッと遊具で楽しそうに遊んでいる子供たちを見つめていた。
タイキも同じようにその様子を眺めた。

「ここで何してんの?」
しばらくの沈黙の後、タイキは聞いてみた。
「別に。休んでる」
「ふーん。次の標的を決めてるとか?」
「はあ?何の?」
「だから…万引き?……イッテェ!」
足を思いきり踏まれてしまった。

「いてえな!何すんだよ」
「あんたがムカつくこと言うからでしょ」
「とかいって、本当のことじゃないのか?次はあそこのコンビニとか」
その時、タイキは鋭い視線を感じて口を閉じた。
「黙ってくれる?マジうざい」
その目には殺気さえ感じる。
仕方なく、タイキは黙って再び子供たちを眺めた。

 遊びに夢中になっている子供の一人が転んで、泣き声をあげた。
すると母親だろう女性が慌てて駆け寄り宥めてやる。
 タイキはちらっと隣の彼女に目をやった。
彼女はその親子を、なぜか哀しそうに見つめていた。

タイキの視線に気付いた彼女は「うざい」と再びタイキを睨んだ。
そして立ち上がり、何も言わずに去って行った。
「なんか言って行けよ」
ポソッと呟いたタイキの言葉に反応するかのように、彼女は立ち止まり、振り返った。
思わずタイキはビクッとする。
しかし、彼女は何をしてくるでもなく、そのまま公園を出て行った。

タイキは息を吐いて、その後ろ姿を見送った。

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