《MUMEI》
day2-05
 煉は湊の大空をそのまま透写したような透き通ったスカイブルーの瞳で見つめられ、何故かたちまち硬直した。……いや待て、こいつには自分の姿は見えていないんだぞ?
「ミナトー何やってるのー? 早く来なさーい」
 湊の背後からそのような声が響いた。彼女は腰から上を反転させて剣道場の中の誰かさんに向けて応答する。
「うーん今行くよー」
 そして湊は今一度煉のいる方角に目をやり、一言も発さずに剣道場内に侵入した。
 この数秒間に煉は一つ違和感を覚えた。同時に早姫の方も、全く同じ違和感を抱かずにはいられなかった。
「なあ早姫。今の……加賀音湊は、明らかに俺を見ていたような気がしたんだが」
 煉と早姫の後ろに人影は無い。
「それはあたしも同感。何となくだけど、あたしもそんな気がしたよ」
 早姫はいつもと違い何やら神妙な声音で話す。
「でも、もしそうだとしても変よ。あたし達は今己の姿を不可視モードにしてる。現在生きている人があたし達の姿を見るなんて……ちょっとやそっとの霊力持ってても有り得ないのよ?」
 それは確かにそうなのだが。
「あいつは並一通りではない強固な霊感保持者なのかも知れないな」
「……今までそんな話聞いたこと無い。ただの人間、そんなこと……一度霊力探査もしたのに……」
 だからこそこの懸念は強化される訳だ。この高校に侵入する直前に行った霊力探査では強い霊能者の存在を感知することではできなかった。煉自身がその事実を確認したのに、見落としがあったとも思えない。
「あの娘は普通の人間じゃない……例えば、ここに潜入してる工作員だとか」
「同業者か……無くは無いな。あと、この先局にとって不要な存在だと判断されたから、俺達を尖兵として遣わせたのか……それ程突飛な推測ではないな。本部のいかれた野郎どもの考えそうなことだ。人の命を何だと思ってやがる」
 なお、最後の一文は半分本気ではない。でないとこの仕事は続けられない。その自信が無い。たとえ片時でも忘れてはならない。自分達は指定された人間の命を奪う任務を遂行するために存在する死神なのだ。
 そして仮に湊が同業者ならば、普段から自らの気配を消して動き、煉達に存在を悟られなかったことも頷ける。
「とにかく今結論を出すのはまだ早い。もう少し加賀音湊のことを観察してから、話はそれからだな」
「……そうだね」
 二人はそれから剣道場内に入ろうとして踏みとどまり、一応念のために湊の目につかない外から密かに観察することにし、剣道場の裏手に回り、そこの窓に張り付いた。

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