《MUMEI》 World's End日向の姿が見えなくなり、そこには音無とかなでだけが残された。広い体育館に二人だけしかいないもんだから何だか余計に広く感じる。『死んだ世界戦線 卒業式』の貼紙も、横一列に並んだ五つの椅子も、卒業式が終わって他の三人が消えた今となっては所在無さ気と言った感じだ。音無は 感慨に耽りながら、親友とハイタッチを交わしたまま上げっ放しだった右腕を、そっと、降ろした。 かなでが、かなでだけが音無の方を見つめていた。とうとう二人だけが残ってしまった。いよいよこの時が来てしまったのだ。音無もかなでも、消える。この世界に、戦線メンバーは、誰も残らない。 直前の日向の声が蘇る。『かなでちゃんを残して先に消えるなよ』。だとしたら俺は、かなでが旅立つのを見守ってやるべきなんだろうな、と音無はぼんやり考えた。 何故だか急に照れ臭くなって音無は頬をかいた。 「あの、さ……」 このまま突っ立っていてもかなでの方から口を開くとも思えなかった音無は、ということも無いかも知れないが、自分から口火を切っていた。そして口を開いたはいいもののいざとなると何を話せばいいのかわからず口ごもってしまう。不自然な間が空く。 「結弦」 思いがけずかなでの方が声をかけてきたので音無は少しだけ驚いた。 「何……だよ……」 「もう、あたし達しか、いないんだね」 音無は、かなでが何を言いたいのか真意が掴めずにいる。 「そう……だな」 それがどうかしたか、と言う前に、 「……ずっと言えてなかったけど……あたし、結弦に言いたいことがあるの」 何故か目の前が眩んだ。かなでの方はやや俯いて躊躇ったような表情を見せている。同時に音無も色々なことを考えた。もう最後の時が迫っている。音無の方にも、別れの前に言わなければならないことが、あった筈なのだ。 「あの……」 「待ってくれ」 音無は諸手を差し出して制止を促し、かなでは素直に従ってくれた。不思議そうな顔をして頭を傾けている。今かなでの頭の中では疑問符の妖精が旋回していることだろう。 「あのさ、外に出ないか?」 「……え……?」 「俺も、かなでと少し、話がしたいんだ。ここじゃなくて、外で……俺だって、かなでに話したいことがあるんだ……」 そう言って音無とかなでは体育館を後にする。出た所は階段になっていてすぐ脇は水が流れている。そこを降りていくとグラウンドだ。今は部活動も終わっている時間帯であり、空も夕暮れのオレンジに染まっている。そこの中腹くらいで、二人は立ち止まる。 次へ |
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