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《MUMEI》 Recollectionかなでの前を歩いていた音無が、ふと、振り向いた。 「あの……」とかなで。 「悪いな、わざわざ連れ出して。でも、どうしても言いたかったことがあるんだ。今言ったってどうにかなる訳じゃないってわかってるのに、でもどうしても、止められそうにないんだ」 かなでは再び思案顔で小首を傾げた。対する音無の表情は真剣一直線である。表情に切れ味があるとしたらどんな密度の重金属も引き裂いていることであろう。 「……先に言わせてもらっていいか？」 かなではゆっくり頷いた。この間までと同じように、無味乾燥した完全無欠の無表情で。 「ええと、何から伝えればいいものか……」 音無は困ったように頭をかきむしった。かなではかなでで別な意味で困った顔をする。目の前で煩悶されても何を言えばいいかなんて第二者にわかる訳が無い。とにかくかなでは、音無の次の言葉を待っていた。 「このところ、てかこの世界に来てからだな、色々なことを考えたんだ」 かなでは黙って聴いていた。 「目が覚めたらいきなり訳わかんねえ場所にいてさ、訳わかんねえ女が訳わかんねえ説明をし出したんだ。もうあんまり訳わかんねえからついていけなくて――まあ俺の記憶が無かったからだろうけどな――グラウンドに降りてみたら、どうだ、訳わかんねえうちに心臓ぶっ刺されて気づいたら保健室に寝てたな。もう最初からぶっ飛んだ死後の世界デビューだったんだ」 今度はかなでの方が、音無が一体何を言いたいのか理解しかねている。ただ懐古したいだけなんだろうか。 「それからもう色々大変だったんだ。色んなトラップをかいくぐってギルドに降り立ったり女子寮に忍び込んだり野球大会に無理矢理参加したりテストの裏工作をしたりな。生徒会長だったお前にはホント手を焼かせちまったよな。面倒な生徒だったろ、俺達」 「それは……そうね……」 「でも、それでもゆりはオペレーションをやめようとはしなかったんだけどな。理不尽な人生を強いた神を許せないって、もうあれ殆ど口癖だったな。他にも口癖はあったか。『順応性を高めなさい』とかさ。まあそれは置いといて、そんな奴がリーダーで、色々振り回されて……でも俺は、悪い気がしなかったのも確かなんだ」 「……そう……」 「それでさ、前に言ったことがあるよな。俺は最初からお前と敵対する理由なんて無かった。お前の味方になれる奴だったのに、抗争の毎日になってしまって……すまん」 「あなたが来る前からそうだったから」 「それはそうだけどさ……そうだ、これも前に言ったよな。皆で釣りして、川の主を調理してた時、お前の名前が好きだって。その時から俺はお前のことをかなでって呼び始めるようになったんだ、覚えてるか？」 「うん」 今度は多少自信あり気にかなでは肯定した。 前へ |次へ |
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