《MUMEI》
五階
中は










「…すげー、な」












ホテルそっくりにフロントまで造られていた






人のいないフロントの奥には、撮影用カメラが数台










俺がそれをボーッと見ていると







「佑二、五階だ。」

隆之が俺の袖を引いてエレベーターまで歩み、

上矢印ボタンを押した。




「佑二」






4を示していたランプが徐々に下降してきた





「…どうする気なんだ?」


「どう…する…」

「どうやって、辞めさせるか…スタッフもいるだろうしな…」








…考えて、無かった










でも










「秀一が望んでやってたら、お前が止めたっ…」


「いや」








俺は、億劫で俯かせていた頭を上げた





「どうしても、辞めさせてぇ…」






大切な人に






「辞めさせねぇと…」








これ以上、







「撮影スタッフ、殴り飛ばしてでも…」








傷ついて欲しくは無いから






「…辞めさせる…ッ…!」






ランプが1を示して

扉が開く





















「ばーか」




隆之の手が俺の背に添えられ、

その手は俺を押して、一緒にエレベーターに乗り込んだ







隆之が5を押す。

扉が閉まった












「…ンなフラフラじゃ、ガキだって殴れねーよ」

「………」










―――俺、そんなしんどそうだったのか…










「…何」

隆之が突然、俺の前髪をかき上げたから、

俺は怪訝そうに睨んでやった





隆之は答えずに自分も同じようにしてから





「………」



額同士をくっつけた







ランプは3だ








隆之は目を閉じていて、




俺は何処を見てれば良いのか、分からなかったから

視線を泳がせていた





「…やっぱな」

隆之が瞼を上げる








「すげー熱。」


額を触れ合わせたままだから、
隆之は上目遣いになってる。








ランプが5を示して、扉が開く





隆之は俺から離れて、


自分の前髪を適当にかき乱し













「病人がお先にドゾ」と、エレベーターの《開》ボタンを押した





俺は言われるがままに、そこを出た















エレベーターから出る瞬間















「絶対…お前に、怪我させたりしねぇから…」




















後ろで、隆之が何か呟いた気がした。

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