《MUMEI》

珍しく、という事はソレだけ緊急性があるという事で
相田は一つ小さな溜息でそれを了承する
「……やれるだけはやってみるが、期待はするなよ」
「アンタなら、大丈夫」
「何を根拠に」
「……だって、私の下僕だから」
「大した自身だな」
「……アンタ程じゃ、ない」無駄口を叩いていないでさっさと行け、と手で追いやられ
相田は苦笑を浮かべながらソレに従い踵を返した
取り敢えずは探し始め
当ても見当もないそれにすぐさま手詰まる
既に村中探して回った
それでも事の進展は何もなく
手詰まったソレに苛立ったように相田は髪を掻いて乱す
「そもそも指斬り様っては何なんだよ」
ソレ自体が何なのかを解っていないまま
唯闇雲に探すばかりの相田
当然見つかる筈もなく、つい大声で愚痴って見れば
相田は自身の背後に気配を感じ、すぐ様踵を返していた
其処に居たのは、一人の女性
だが知った顔でなく、相田の警戒は解けないまま
そんな相田へと、女性の方から声が掛る
「……指斬り様は、(オヤクソク)そのものだから」
「は?」
「オヤクソクを交わしてしまえば、もう指斬り様には逆らえない」
嘲笑が所々に混じる、聞くに不快な声
語られる言葉も意味不明なソレで
怪訝な表情を相田は浮かべて見せる
「あなたも、交わしてみる?指斬り様とのオヤクソクを」
さも楽しげな笑みを向けられ
相田はあからさまに嫌な表情を顔に出していた
そのオヤクソクを交わした後に何があるというのか
興味こそあったが、それを交わしてみようという気には到底なれない
「……馬鹿なヒト。すっかり琴子に感化されてる」
「そうかもな」
「指斬り様は、ヒトにとっての救い。貴方だって信じればきっと……」
「興味ねぇんだよ。そんなもん」
聞く事に当に飽き、相田が一旦戻ろうと踵を返せば
背後には未だ人の気配
殺気の様なそれすら感じられ
警戒しながら来た道をまた歩いてもどる
「逃がしてなんて、あげない。それが、私と指斬り様とのオヤクソク」
歩き始めた矢先に
相田の首筋へ不意に刃物が宛がわれた
「……死んで、くれる?あの子に与する全てが邪魔なの」
まるで何か手直にあるモノを取ってくれと言わんばかりの気軽さ
相田は呆れたように溜息を一つ吐くと
首筋に刃物を感じたまま肩を揺らす
「……死ねって言われて、はいそうですかって素直に死ぬ馬鹿が入ると思うか?」
「思わないわ。勘違いしないで。これは問いであって問いではないの」
「だったら何だ?」
「……指斬り様との、オヤクソク。それは必ず守られるべきもの」
感情の籠らない声で淡々と語り
そして言葉が終わると同時に相田の首に宛がわれていた刃がそのまま引かれ
血液が、そこから噴いて出た
「……何故、生きてるの?アナタ」
大量に血を流しながら、それでも倒れる様子のない相田
その表情に苦痛の色は見受けられず、口元には笑みすら浮かんでいる
「……痛みを、感じないの?アナタは」
「痛ぇよ。当然だろ」
「けれど、あなたは倒れていない。何故?」
それまで無表情でしかなかったその顔に、僅かながら困惑のソレが浮かぶ
その様に相田は更に嘲笑を浮かべると
徐に首筋に流れ落ちる血を掌で拭いとる
「……アナタ、一体……」
「(死に花)」
何者なのか、と続く筈だったそれを途中遮り、そして先に返してやれば
ソレが何なのか分からない様子の相手は困惑した様な顔で
その間の抜けた表情に相田はつい肩を揺らす
「……死に花?それは一体……」
困惑気な様子の女性へ
疑問を口につい出してしまうが相田から先が語られる事はなく
女性へと睨む様に一瞥をむけて
その直後
「……アンタに話す事なんて何もないわ」
いつの間にか相田の傍らへと琴子が立っていた
「……お嬢」
「……帰って来るの、遅い」
だから探しにきたのだ、と
普段あまり外に出る事を好まない琴子が探しに来たらしく
その事に、相田は何かあったのではと顔を覗きこみ問う事をしていた
「別に、何も。それより」
                                                                                                   

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