《MUMEI》
かんさつ 1
 某月某日
観察者 九重 鈴

 「どうして、うちの庭に生えていたんですか?」
朝、会社へと出掛ける九重を見送り
大体の家事を終わらせ一息ついた鈴
傍らで双子の息子と娘と戯れるくさを眺めながら徐に問うていた
鈴からの問いにくさは暫く間を開けた後
「最初に言ったと思うのだが日光浴なのだ」
ソレが地球へ来た目的だ、とくさは語る
「日光浴、ですか……。」
「その通り。決して地球侵略などではないのでご安心戴きたい」
「という事は、くささんは宇宙人なんですか?」
「当然!見よ!この美しく咲く花を!この様に美しい花がこの地球上にあるか!?」
華を主張させる様に頭を向けてくるくさ
余り見たことのないその花に
鈴は一体何の花なのかを問うてみる
「この花か?これは(実)の花だぞ」
「実、ですか?」
一体何の実の花なのかを続けて問えば
途端にくさは小難しげな顔をしてみせる
「何の、とは難しい質問なのだ。コレは日によって生るモノが違う」
眉間(?)に皺らしきものを寄せながら
くさは徐にその花の下へ手を入れ
其処から生っていたらしい実を一つ取って出してきた
「これでよければ、家賃としてお納めを」
「は、はい……」
受け取ったソレはどう見てもトマト
真っ赤に熟れていて、見る限りでは美味しそうなそれだ
「さてと。我は日光浴でもして来るとしよう」
相変わらず堅苦しい喋りで呟くとくさはそのまま庭へ
その後を子供たちが追うていき、
言葉通り並んで日光浴を始めていた
「くささん。この子たちをお願いできますか?私、お昼ご飯を作ってきます」
「うむ。任されよう」
相変わらず重々しい口調のくさ
だが鈴は微笑んで頷くとそのまま台所へと入っていった
「咲殿、さくら殿。、何をして遊ぶ?」
返答はないだろう赤子達へ
それでも問うてみれば徐にくさの頭の花が掴まれる
「咲殿!それだけは勘弁を!余り引っ張ると禿げてしまう!」
どうやら頭に生えている花はくさにとって髪の毛の様なものらしく
抜かれまいと防御する事に必死だ
「奥方!おーくーがーた!助けてー!」
余程切実なのか
助けを求めてくるその声も相当必死で
慌てた鈴がすぐに双子を引き離す
「大丈夫ですか?くささん」
「何とか……」
「ごめんなさい。うちの子供たちが……」
「いやいや。子供はこれ位元気があった方が良い。だがしかしこれだけは、この花だけは……」
引っ張られて痛かったのか、頭をさするくさ
だが双子はそれでもやはり気になるのか
鈴の腕に抱かれたままくさに触ろうと懸命に小さな手を伸ばす
「二人はくささんが好きなのね。でもくささんが疲れちゃうから、取り敢えずご飯にしましょうね」
言い聞かせてやりながら、鈴は二人を抱え上げ食卓へと座らせる
そして始まる昼食
くさのそれもきちんと食卓の上に用意がされており、
其処の上に置かれてる小さなちゃぶ台へとくさは腰を降ろしていた
「……いただきます」
行儀よく手を合わせ食べ始めるくさ
人形用の小さな箸を器用に使いながら
一口一口噛み締めながら食べていく
「お味は、どうですか?」
懸命に食べるくさの様が微笑ましいのか
鈴は笑みを絶やす事無く料理の出来を訊ねてみた
「うむ。良い味付けだ。流石奥方」
「ありがとうございます。まだまだありますから」
「では、おかわりを一つ」
ずずい、と皿を差し出してくるくさ
鈴は笑みを浮かべながら返事をし、そしてお代りをよそってやる
「ふー。満腹だ」
全てを食べきり、すっかり膨れてしまった腹をさすりながらくさは身を横たえる
微妙にオヤジ臭さを漂わせるくさへ
鈴は笑みを浮かべると、くさの腹の上へとハンカチを掛けてやり
昼食の片付けにと、席を立ったのだった……

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