《MUMEI》
day2-06
 高校の部活動は毎年五月初めの地区高校総体で一応の節目を迎える。県大会まで残れなかった三年の敗者達はそこで実質的引退ということになり、部活動に於ける指揮権は二年生へと移動する。
 なお、今年のこの高校の剣道部三年生の数名はそれ程強い訳ではなかったらしい。県高校総体はもう終わっていたが、その前に三年生は残らず引退してしまっていた。
 そしてその後継ぎとして、加賀音湊が女子部部長に就任していた。
 どうやら彼女は引退した先輩方とは違ってけっこうな腕前らしい。見るだけでそれはよく解った。もっとも、煉が剣術に長けているということもあったが、恐らく素人が見たってあの凄さは一目瞭然だろう。多分湊は、かなりのキャリアを持っていることだろう。小学校の時代からずっと続けているとか。
 足捌きから打ち込み、有効打突の迫力から貫禄風格気迫まで、他の部員とまるで一線を画していた。初めて見るこの剣道部の部活風景にも拘わらず、それでも彼女こそが主将に相応しいと思えたくらいだ。試合には直接関係無いが言葉による人心掌握術も悪くはない。
「めぇえん!!」
 豪快な湊の絶叫が場内にこだまする。今の打突も有効だろう。あんなちっこいナリして、でも彼女は立派な剣士だった。
「そんじゃー十分休憩―」
 湊の指示が出て、皆面やら小手やらを外しにかかる。そして湊自身も防具を外す。……彼女の体外に吹き出す汗の量は、他の部員と比べると尋常ではなかった。指揮官としてあの中で一番動いていたからなぁ。
「……早姫。湊が動くかも知れない。お前も、すぐ動けるようにしておけ」
「うん」
 こちらは監視役としてこの地に来ている。もし万一湊に霊感があったとしても、こちらの存在を知られる訳にはいかないのだ。煉のやり方上、奪命のことは報せるが。
 湊が立ち上がった。そして入口に向かって歩み始める。まさかとは思うが、俺達の存在に感づいたのか? と煉は一瞬焦り、すぐに遁走できるよう身構える。

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