《MUMEI》
笹木希
 数分話した後、弘美がたずねる。
「ねえ!のんちゃん家、方向一緒やろ?一緒に帰らん?」

 弘美の笑顔は、ワケもなく独りで居ることにこだわりを持っていた俺の『プライド』という壁を、あっと言う間に打ち砕いてしまった。


 誰かの温もりを一度でも感じると
 独りの寒さに凍えそうになる―――

 自分の弱さを知る
 分かってたのに―――

 有難い気さえした。


 断る理由は無かった。
 帰る準備を終え、学校を出る。



「のんちゃんって少し違うよね。表現の仕方が分からんけど、落ち着き方がウチらと違う。何か大人っぽくてカッコ良い♪」

「そら七年も経てば見た目も中身も別人ばい。それに……」

 俺は先の言葉を続けなかった。


「それに?…何?」

 弘美は不思議そうな顔をする。
 俺は、口から出かけた言葉を抑えていた。

 “弘美が感じたのは多分『冷たさ』だと思う…”

 そう言いかけて、やめた。

 『大人っぽい落ち着き』というのは間違った認識だ。

 だが、それを知った後の弘美が、俺に対して『冷たい』と正しい認識をした時の事を考えると、何と言うか…哀しかった。

 演じる事を学んだ。

「いや、何でもないよ。大人っぽいや〜?分からんな〜……みんな同じやろ。俺だって……言うほど大人じゃないしさ…」

 ゴマかすように否定してみたが、本心だった。
 俺はワガママな子ども。

 弘美は笑う。
「そういう事を落ち着いて言える事自体が大人とって!!♪……あのね、恐くて言い出せんかった事あるっちゃけど…怒らん?」


 ドキッ…

 心の中に入り込んで来るかのような無邪気な瞳。

 だけど、その瞳を恐がる自分の気持ちに気付きたくもなかった。

「何や?結構遠慮無しに話しようのかと思っとったけど?」

「……いや、遠慮はしてないっちゃけどさ……あんね、朝ね、のんちゃん見た時、実は男!?って本気で思った!………怒った?」
 苦笑いしながら、心配そうに探る。


 (っーー…フゥ…)


 タメ息と同時に、心の中の俺は胸を撫で下ろす。

「………。ハハハ!!怒るかって、いつも言われるし慣れたもんたい。ってかさ〜、今の俺に“のんちゃん”はナイやろ…呼び方 変えようやぁ―――……」

 もっと鋭い事を言われるものだと覚悟してた俺は拍子抜けして、思わず笑ってしまった。

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