《MUMEI》 僕も子供だったけど、その子は僕より頭1つ分小さかった。 黒い生地に、金色の蝶が刺繍された浴衣を身にまとっているその子は、独特の雰囲気を出していた。 「…アンタ、誰?」 「えっえっと、玖城(くじょう)雅貴(まさたか)」 「玖城? …ああ、雅子(まさこ)叔母さんの1人息子?」 「えっ? 母さんを知っているの?」 「まあね。オレは宮乃原由月(ゆづき)。よろしく」 そう言って手を差し伸べてくれた。 小さくても温かい手を取って、僕は立ち上がった。 「よっよろしく。もしかして…雅月(まさづき)伯父さんの子供?」 「そっ。そしてアンタのイトコ」 ああ…と言われても、伯父さんの何番目の子供かサッパリ分からない。 母いわく、伯父夫婦には6人の女の子に、2人の男の子がいるという話。 最初に5人の女の子で、次に例の男の子、そしてまた男の子で、最後が女の子。 因みに長女はすでに20歳で、末の子はまだ1歳らしい…。 僕の住んでいる街ではとても珍しい、大家族だ。 この子は…女の子にも見えるけど、男の子かもしれない。 でも浴衣を着ている上に、髪が少し伸びているし、名前も女の子っぽいから、もしかしたら女の子かな? 噂の男の子は僕より年下だけど、女の子だって小柄な子はいる。 それに最近じゃあ女の子も自分のことを『ボク』や『オレ』と言う子も少なくない。 …そもそも小学生って、性別が分かりづらい子が増えてきているから、ややっこしいんだよな。 「ところで、誰か捜してんの?」 「あっ、いや、その…。まっ迷子になっちゃって」 アハハと苦笑しながら言うと、由月は腕を組み、ため息をついた。 「どこに行きたいの?」 「えっと、玄関入ってすぐの広間」 「…随分遠くから来たんだね」 「たっ探検してたら、迷っちゃって」 「この家、増改築繰り返してて、慣れないとすぐに迷子になるんだよ」 そう言いながら歩き出した。 広間まで案内してくれるみたいだ。 「そうなんだ。どおりで入り組んでいると思った」 「まだウチに金があった頃、先祖がおもしろがって家をいじくったんだって。ヘタすりゃカラクリ邸さ」 「でもそういう所に住んでるのって、おもしろくない?」 「実際住んで見ると、はた迷惑なだけ」 答え方は素っ気無いけど、話はしてくれる。 この子が例の男の子とは、ちょっと思えないな。 無表情で話をするけど、難しい性格ではなさそうだし…。 「アンタの住んでいる街の方が、楽しいんじゃない? 都会だから、いろいろあるんだろう?」 前へ |次へ |
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