《MUMEI》

「あることはあるけど…。あり過ぎて、ワケが分かんない時がある」

僕の答えを聞いて、由月はきょとんとした。

しかし次の瞬間、ふっと笑った。

「何じゃ、そりゃ」

「あっはは…。いろいろあると、迷うんだよね」

「アンタ、迷ってばっかだな」

「そうだね」

…ヤバイ。

この笑顔は、胸が高鳴る。

思わずイトコ同士って結婚できることを、思い出してしまうほどに魅力的だった。

他愛のない話だったけど、僕はスッゴク楽しかった。

やがて広間が見えてきて、話し声も聞こえてきた。

「ついでだから、雅子叔母さんに顔見せしとくかな」

「うん。両親喜ぶと思うよ」

「そっかな?」

「うん!」

僕はすっかり舞い上がっていた。

広間に戻ると、心配顔の四人に出迎えられた。

「雅貴! アンタ、どこ行ってたのよ?」

母が駆け寄ってきた。

「ちょっと邸の中を探索してたら、迷子に…」

「ここ、複雑に入り組んでいるから、迷子になりやすいのよ。でも戻って来れてよかったわ。今、兄さんと捜しに行こうかと…あら?」

母は僕の背後にいる由月に気付いた。

「由月…ちゃん、かしら? もしかして」

「…うん」

由月は僕に隠れながらも、頭を軽く下げた。

「あらあら、はじめましてね。玖城雅子よ」

母は僕を除けて、由月に近付いた。

「…どうも」

由月はさっきと様子が違い、どこか緊張した面持ちになった。

まあ10年ここに戻ってきていないということは、この子に会うのははじめてなんだろう。

お互い存在は知っていても、顔を合わせるのは生まれてはじめてだからなぁ。

「ああ、キミが由月ちゃんか。よろしく。俺は玖城貴信(たかのぶ)。キミの叔父になるんだ」

父も広間から出て、由月に挨拶する。

「雅貴くん、早速由月と話をしてくれたのね?」

伯母が嬉しそうに言ってきた。

「僕が迷子になっているところを、助けてくれたんです」

「まあそうだったの」

伯父と伯母は心底意外だという顔で、由月を見る。

由月は見られて居心地が悪いのか、ちょっと顔を赤らめ、そっぽを向いてしまった。

…やっぱり可愛いなぁ。

いつも周りにいる女の子はうるさいぐらいで、こんなに大人しい子は近くにいない。

今は色白が流行っているのに、この子は健康そうに焼けているのも、中身とギャップがあって良いなぁ。

でも遠距離恋愛って、難しいって言うし…。

僕が1人の世界に入っている間に、由月は両親の質問攻撃から逃れる為に、僕の背後に隠れた。

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