《MUMEI》

伯母は由月の部屋の前まで来ると、笑顔で去って行った。

伯母は由月に懐かれているみたいだし、声ぐらいかければいいのに…。

でも他の子供達の手前、あんまり由月ばかり甘やかすこともできないのかもしれないな。

そう思いながら、僕は声を出した。

「由月、ご飯持って来たよ」

「ああ」

由月は襖を開けてくれた。

「母さん、戻ったんだな」

「うっうん。食事中に抜け出してきちゃったから」

そう言えば由月は足音で人が分かるんだったな。

「…これから料理は自分で運ぶ」

「えっ?」

「母さんの手を煩わせてばかりもいられないからな」

そう言って伯母が持ってきたお膳を持って、部屋の中に入った。

僕も慌てて中に入る。

「由月はさ、伯母さんのことは好きなんだよね?」

「ついでに弟や妹も。親父や姉貴達は正直好きじゃない」

「でも伯父さんも悪気があるワケじゃないと思うよ? 由月に立派な跡継ぎになってほしいんじゃ…」

「今更跡継ぎなんて大層なことを言っても、所詮この家と畑と田んぼ土地ぐらいなんだ。そう重いもんじゃないのに、あのバカ親父は…」

「でっでもホラ、昔は知名度あったんだろう? 金や温泉が取り放題だったって聞いた」

「それで調子付いて取りまくったから、今じゃこんな生活なんだけどな」

…おっしゃる通りです。

「それをあのバカ親父はいつまでも過去の栄光にしがみ付きやがって…。考えが古臭いんだよ」

「でも一応、歴史ある家系だし…」

「最近じゃ、一般の家系図と大して変わらないさ」

いや、由月のご家族は一般とは激しくかけ離れている…とは言えなかった。

僕だって、同じ失敗を二度も繰り返したくはない。

「それより食おうぜ。冷める」

「ああ、うん」

伯母の料理は美味しかった。

僕の両親は共働きで、手料理はあまり食べていなかった。

だから久し振りの手料理に、心が温まる。

「何ニヤニヤしてんの?」

「へ? あっああ、伯母さんの料理美味しいなって」

「フツーじゃないの?」

「そうかな? 僕は美味しく感じられるけど」

「ふーん」

素っ気無いながらも、僕を気にかけてくれることに、嬉しさを感じていた。

そこでふと思う。

この心の温かさは、伯母の料理が美味しいからだけだろうか?

それとも…由月が一緒にいるから?

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