《MUMEI》
帰り道
「…へぇ、夏休みを利用して、ここに来たんだ」

「うん。いつも都会のうるささにウンザリしていたから、ここに来るとほっとする」

「そんなものかな? ボクはずっとここにいるから、分からないケド」

他愛の無い話をしながら、わたし達は山道を下って行った。

「コムラはここら辺に住んでいるの?」

「うん、まあね。山の中の方面でね。あの神社は元々ウチで祀っていたものだし」

神社の血縁者か。

ならあそこにいても不思議じゃないけど…。

「でも随分荒れているわね…」

「ああ。もうボロいしね。拝んでいく人ももういないも同然だし、忘れられているみたいだからね」

「何だか…寂しいわね」

私がそう言うと、コムラは少し寂しそうに笑った。

「…しょうがないよ。時代ってものだよ」

そう言うコムラの方が、都会的な考えだった。

楽しい時間はあっという間で、すぐに山のふもとへ出られた。

「ここからなら帰れる?」

「うん、ありがとう」

「どういたしまして」

にっこり笑うコムラを見て、胸が高鳴るのが分かる。

…このまま二度と会えなくなるのはイヤ。

「ねっねぇ、コムラ」

「何?」

私は手を握り締め、コムラの顔を真っ直ぐに見つけた。

「また、会える?」

キョトンとしたコムラの表情。

「あの神社にいるなら、会いに行っても良い? それともこの村に住んでいるのなら、お礼したいし…」

しゃべっているうちに、何を言っているのか自分でも分からなくなった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫