《MUMEI》

「ボクに、か…」

コムラは静かに呟いた。

…ヤバイ。この反応はマズイ。

がっついていると思われた、絶対。

……いや、実際には必死だ。

彼とこのまま別れたくなくて、心が騒いで仕方無い。

「うん、良いよ」

「えっ?」

「神社には毎日いるから、ヒマな時にでもおいでよ。森の中を案内してあげる」

そう言われても、すぐに返事が出来なかった。

信じられないぐらいの好反応。

って、ぼーっとしている場合じゃない!

「うっうん! 毎日、遊びに行く! 明日はお礼を持ってくるね!」

言うだけ言って、わたしは駆け出した。

顔が火照っているのが分かったからだ。

走るわたしを見て、コムラは笑顔で手を振ってくれた。

―だから知らなかった。わたしが去った後、コムラに話しかけてきたモノの存在に―

「随分、可愛い子だね」

声をかけられた途端、コムラの表情が険しくなった。

「…お前が導いたのか? キムロ」

森の木の陰から、黒い髪に黒い瞳を持つ少年が出てきた。

意地悪そうに微笑む彼の表情に、コムラの目がつり上がる。

「まさか。何にもしていないのに、あの子はお前の領域に踏み込んだのさ。こっちが驚いているぐらいだ」

黒いTシャツに黒のジーンズ。闇を思わせる彼は、肩を竦めて見せる。

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