《MUMEI》

にっこり微笑む笑顔は、可愛い。

「こんにちわ」

「こんな所でどうしたの? 道に迷ったの?」

「ううん。コムラの所に行こうとしているの」

「コムラ? あなた、コムラを知っているの?」

女の子はキョトンとした。

「ええ。昨日、この山で迷っているところを助けてもらったの。だから今日はそのお礼をしに来たんだけど…」

「ああ、そのスイカ! 美味しそうね」

女の子は眼を輝かせて、わたしの担いでいるスイカを見た。

「ちょっと待ってて! コムラを呼んで来るから!」

「えっ! いっいいわよ。ちゃんと行くから」

「ダメダメ」

そう言って女の子は踵を返した。

「か弱い女の子が持つには重過ぎるものだわ。それに…私も頂きたいしね」

そう言って茶目っ気たっぷりにウインクする女の子を見て、察した。

「あっああ…。食べたいのね、スイカ。一刻も早く」

わたしのスピードでは、たどり着くまでもうしばらくかかるだろう。

そしてその間に、スイカはぬるくなってしまうから…。

「察するのが早くて嬉しいわ。じゃあ、待ってて。すぐに戻って来るから!」

そう言って女の子は軽やかに山道を走り出した。

元より小柄な女の子だが、その動きはちょっと人間離れしている…というより、田舎の少女らしい。

わたしは『すぐに戻って来る』という言葉を信じて、その場にしゃがみこんだ。

…実は限界だった。

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