《MUMEI》 わたしはそのまま山道を下り始めた。 「あっ、送るよ。キムロ、ミトリ、スイカ持ってって」 「分かった」 「ちゃんとりんを送るのよ」 コムラは困り顔で、わたしの隣で歩く。 「今日はホントにゴメン。一人にするべきじゃなかった」 「…ねぇ、コムラ」 「なっ、何?」 わたしはクルッと体の向きを変え、彼と向き合った。 「わたし、コムラを信じて良いのよね?」 「えっ?」 「コムラが信じろって言うなら、わたしは信じる。…この世の中、人間だけが正しい生き物じゃないしね」 そう言って、にっこり笑った。 「りん…」 コムラは泣きそうな顔で、わたしに近付き、額と額を合わせた。 …さっきのキムロの手のように、冷たい。 「ゴメン…」 「良いのよ。ズカズカと踏み込んできたのは、わたしが先なんだもの。気にしないで」 「うん…。でもありがとう」 その後。特に会話をしなかった。 ただ手をつないで、二人で山道を歩いていた。 別れ際。 「明日、ここで待っている」 「分かった。じゃ、明日は冷たいヨウカンでも持ってくるわ。ミトリとキムロによろしく」 「うん、じゃあね」 ふと歩き出した時、気付いた。 …体温が少し冷たいぐらいになっている。 特に額と首元、そして手が。 だからわたしは―彼等を恐ろしくはないと感じた。 前へ |次へ |
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