《MUMEI》 「ったく…」 「由月、学校で僕のことを言ってたの?」 「そっそれはっ、都会に住んでるし、珍しいからっ…!」 彼にしては珍しく、動揺している。 「そうなんだ。何だか嬉しいよ」 「そっそうか」 その後は無言で歩いた。 けれど僕は心の中がくすぐったい気分だった。 由月にとって僕は、少なくとも会話に出るぐらいの存在らしい。 それが嬉しかった。 「ははっ」 「何笑ってんだよ?」 「いや、由月ってやっぱり同級生より大人っぽいなと思って。落ち着きがあるよ」 「オレはどーせ可愛げがねーよ」 「そんなことないよ。心をなかなか開いてくれないだけで、本当はスゴク優しいし」 「やっ優しいのは雅貴みたいなヤツのことを言うんだろう? オレみたいなガキの面倒見てるし」 「それは由月がとても話しやすいからだよ。僕には多少なりとも心を開いてくれてるだろう?」 「…どうだろうな?」 そう言いつつ、由月の手が僕の手を掴んだ。 今はもう夜。 辺りに光は少なく、手を繋いでいても気付かれないだろう。 僕は自分より一回り小さな手を、握り返した。 川原に近付くにつれ、人が多くなった。 そのせいで、せっかく繋いだ手も離されてしまった。 ちょっと残念に思い、肩を竦めた。 「花火始まるまで、屋台回ろうぜ。オレ、焼きソバとカキ氷食いたい」 「僕はチョコバナナとわたあめが良いな」 「甘いもんばっかだな」 「屋台ならではの食べ物が食べたいんだよ。チョコバナナとわたあめなんて、屋台じゃなきゃ滅多に食べれないし」 「まっ、そうだな。近くの店から行こうぜ」 「うん!」 川原にはいっぱい屋台が出ていた。 僕達は眼についた屋台に、片っ端から行った。 そして充分に食べて、遊んだ後、由月は言った。 「花火が静かに見られる穴場があるんだ。そこへ行こうぜ」 「うん」 由月の案内で向かったのは、川原の上にある神社だった。 川原と山が繋がっていて、その途中に小さな神社があった。 「ここ、普段からあんまり人が寄り付かないんだ。こういうイベントだと、誰も来ない」 「なるほど。確かに穴場だね」 神社の階段に座ると、川原一面が見下ろせる。 <ひゅるる〜… ぱぁん!> 「あっ、はじまった!」 「うん!」 夜空に次々と火の花が咲く。 色鮮やかな火の花は、咲いては夜空に散っていく。 幻想的な光景に、息をするのも忘れてしまう。 前へ |次へ |
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