《MUMEI》 「キレイだな」 「うん」 思わず彼の方を向いてしまって、…僕はその姿に眼を見開いた。 キラキラと輝く瞳に、まだ幼さの残る顔。 群青色の浴衣から出ている細い手足、首から胸元に視線を向けてしまう。 「っ!?」 花火が上がるたびに、彼にもたくさんの色がふりかかる。 花火よりも、彼の方が幻想的に見えて、とてもキレイだった。 だからか視線が彼から外せなかった。 「…ん? どうかしたか?」 僕の視線に気付き、由月はこっちを見た。 「いやっ、あの…」 何か言い訳をしないといけないのに、僕の眼は彼から動かせない。 すると由月まで、僕を見つめてきた。 時が…止まった気がした。 そっと、由月が顔を寄せる。 だけど僕は少し後ろに引いた。 けれど腕を捕まれ、体が固まった。 そのまま彼は再び顔を寄せてきたので、僕は眼を閉じた。 「んっ…」 唇に、柔らかな感触。 見なくても分かる。 彼の…由月の唇だ。 花火の音より、心臓の鼓動がうるさいぐらいに体の中で響いた。 由月の熱くて甘い唇は、しばらくして離れた。 「…ゴメン」 「何で雅貴が謝るんだよ?」 「何となく…」 「何だよ、それ」 暗いながらも、由月の顔が真っ赤になっていることが分かった。 きっと僕の顔も赤いだろう。 互いに額を合わせて、その後しばらくそうしていた。 すると花火は終わって、僕達は手を繋ぎ、無言で家に帰った。 家に帰ると浴衣を脱いで、おフロに一緒に入った。 だけどお互い、会話はなかった。 なくても、何となく…居心地は良かった。 どこかポカポカした気持ちのまま、結局その後何一つ話さず、僕達は同じ部屋で眠った。 翌朝、彼は普通に接してきたので、僕も普通に接した。 その年の夏休みも、いつも通りに楽しく、おもしろく終わった。 ただ帰り際、彼が部屋にいたので、挨拶に行った時、再びキスされた。 来年も必ずここへ来るという約束を交わして、僕は去った。 いつもは指きりで別れていた。 だけど今年は…。 指で唇をなぞると、ぞくっと背中が疼いた。 「んっ…!」 声を押し殺すと、顔に血が上った。 僕らはもしかしなくても、踏み出してはいけない一歩を踏み出したんじゃないかって…思わずにはいられなかった。 その後、いつも通りに彼とメールや電話のやり取りをしても、キスしたことがずっと頭の中に浮かんでいた。 前へ |次へ |
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