《MUMEI》

うろ覚えな記憶を便りに、阿騎の診察室に行く途中、たまたまナースの立ち話が聞こえた。


「511号室の高橋さんの担当って神林先生よね?」


「そうそう、さっき奥さんと息子さんがいらっしゃったんだけど、奥さんがすごくて……」


話ながら遠ざかるため、全部は聞こえなかったが、どうやら今は仕事中で511号室とやらの近くにいるようだ。


―やみくもに歩き回るよりは邪魔にならへん範囲で待っとくか…。


そう思って、俺は案内板を元に歩き出した。


目的の部屋は病棟五階のつきあたりにあり、個人用の病室のようだ。

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