《MUMEI》 「ええ。それじゃあ食事はできたら持ってくるから」 「いっいいよ、伯母さん。お膳重いし」 「それなら大丈夫。娘の旦那さん、2人もいるしね。気にしないで」 あっ、なるほど。 僕や由月より、よっぽどアテになるな。 「お膳は部屋の前に置いてもらうから。食べ終えたら同じように、部屋の前に出しときなさい」 「うん…」 「分かったよ、伯母さん」 「じゃあね。何かあれば、気軽に言ってね」 伯母は最後まで困り顔で、襖を閉めて行った。 「カッコ悪いな、オレ…」 「そんなことないよ」 僕は彼の側に寄り、細い肩を抱き寄せた。 「由月も伯父さんも、叶えたい願いと夢がある。だけどお互いにすれ違っているだけ。分かり合える時は、必ず来るよ」 「ああ…そうだと良いな」 素直に僕に身を寄せる彼を見て、また胸が痛む。 こんなに弱っている彼に、更に追い討ちをかけるのは、僕なんだ。 暗い気持ちのまま、由月を抱き締める。 由月は疲れていたらしく、眠ってしまった。 「由月…」 あどけない寝顔を見ると、胸の奥が熱くなる。 唇に視線を向けると、思わず思い出してしまう。 この唇の熱さと甘さを…。 由月は30分ほどで眼を覚ました。 部屋から出たくないと言うので、由月の宿題をすることになった。 由月は僕の教え方が上手いと言ってくれる。 僕は彼の理解力がスゴイだけだと思うけど、由月がこう言ってくれるから、教師を目指そうと思ったのかもしれない。 やがて空が夕闇に染まると、由月が廊下をじっとみた。 「あっ、義兄さん達、来た?」 「みたいだな」 由月が立ち上がるので、僕も続いた。 「由月くん、雅貴くん、いるかな?」 「夕飯、ここに置いておくから。食べ終わったら、また廊下に置いといてね」 「ああ…」 「分かりました。すみません、ありがとうございます」 由月は襖を開けなかったので、声を張り上げた。 2人の足音が遠ざかったところで、ようやく襖を開ける。 「…お義兄さん達、苦手?」 「姉貴達の旦那だからな。ちょっとうるさく感じている」 うっう〜ん、本当に難しいな。 苦笑しながらもお膳を部屋の中に入れた。 「でも嫌いってワケじゃないんだ」 「うん」 「ただ後継者のことで、バタバタしてるから…。やっぱり姉貴達の旦那だしな」 由月ではなく、従姉達の味方になるのはしょうがないこと。 前へ |次へ |
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