《MUMEI》

それを分かっている由月は、僕よりよっぽど大人だ。

「雅貴が側にいてくれれば良いのに…」

「ごほっ!」

ご飯が変なところに入った!

慌ててお茶を飲んで流すも、僕は別の意味で驚いていた。

由月が弱音を吐いた。

今まで頼ることをほとんどしなかった由月が…。

それは嬉しいけれど、同時に罪悪感もあった。

だって僕は側にいるどころか、離れようとしている。

「なあ、雅貴はこっちに来れないのか?」

「ぼっ僕はまだ高校生だし…。それに進路のこともあるから、今動くわけにはいかないんだ」

「そっか…。ゴメン、変なこと言った」

「ううん」

彼が言い出した原因は、何となく分かる。

後継者問題について、彼には身内に味方がいない。

伯父は後継者にしたい派だし、伯母もきっと心の中ではそう思っている。

従姉達は自分が引き継ぎたい気持ちを持つ人がいれば、伯父が由月を特別扱いすることを良く思っていない人もいる。

幼い2人の弟妹には、まだ難し過ぎる。

味方と断言できる存在がいないからこそ、まだ小学1年生の時から家族と距離を取ってしまっているのだ。

そのことを聞いて、僕の両親が動いたわけだけど…。

「雅貴が側にいれば、オレは…」

「後継者を受け入れた?」

「そっそれはないけど」

僕のイジワルな言葉に、由月は激しく動揺した。

その後は無言で夕飯を食べ終え、お膳を廊下に出した。

そんなに時間を置かず、お膳は持っていかれた。

「―で、雅貴の話って何?」

「あっ、うん。僕の進路のことなんだけどね」

僕を真っ直ぐに見つめる由月の視線が痛い。

「教師になりたいって、言ったよね? それで教師になる為の大学が、父方の実家の近くにあってね。そこで下宿しながら通うことにしたんだ。まあ大学が受かったらの話だけど」

「そっか」

「うん、それで…四年間、会えなくなりそうなんだ」

「そう…って、えっ?」

由月の眼が、大きく見開かれた。

「父方の実家は、今より由月の家から遠ざかる。それに教師になる為には猛勉強しなきゃいけないし、バイトもしなくちゃいけない。だから大学四年間は、ここには来れない」

「なんっで…。夏休みとかは長いんだろう?」

「長いけどその分、勉強やバイトをしたいんだ」

「オレに…会えなくていいのか?」

由月の声が細く、小さくなる。

「全然よくないよ。でもそうでもしなきゃ、僕は強くなれないし、教師にもなれない」

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