《MUMEI》 ぐっと歯を噛み締め、僕は言い続けた。 「教師になれば、赴任先をこの土地の学校に選ぶよ。何が何でもここへ来る。だから四年間は…我慢するしかないんだ」 「そんなっ…! 勝手過ぎる。オレに何1つ相談せずに、一人で勝手に決めて…」 「うん、勝手なのは分かってる。でも由月に相談しても、反対されるのは分かってたから」 由月が息を飲む。 「会えなくなるのはたった四年間だ。大学を卒業すれば、必ず僕はここへ来る。待ってて…くれないか?」 「じゃあ四年間、オレはずっと1人かよ?」 「…僕の両親はここへ来るよ。後継者問題に対して、発言力は低いだろうけど、由月の味方をしてくれる」 「でもっ…」 「電話やメールで話もできる。だから、待っててくれないか?」 由月が何か言いそうになっても、僕は遮り意志を伝えた。 しばらく、重い沈黙が続く。 由月は顔を伏せたまま、唇を噛み締め、両手をきつく握っていた。 必死に耐えているのが、伝わってくる。 「…オレが…そっちへ行っちゃダメか?」 やがて吐き出された言葉は、とても現実味を帯びていなかった。 「それはムリだと、由月自身が分かっているだろう?」 伯父は絶対由月を手放さない。 それに由月自身も、この土地から離れようとはしないだろう。 「そこまで言ってくれるのは嬉しいよ。でも僕を信じてくれないか? 四年間を我慢すれば、その後はずっと毎日、いつでもキミの側にいられるんだ。その為に僕も我慢するし、頑張れる」 「雅貴…」 顔を上げた由月の眼は、赤く潤んでいた。 僕は苦笑して、由月の頬を両手で包んだ。 そしてゆっくりと近付き、薄く開いている唇にキスをした。 「んっ…」 由月の腕が、僕の背中に回る。 一年ぶりに触れる唇は、やっぱり熱くて甘かった。 「…今の僕は、自信が無さ過ぎなんだ。だから胸を張って、由月の側にいられない。だから修行に行ってくるよ」 「バカ…」 「うん、バカなんだ。由月のことが好き過ぎて、人生を変えてしまうほどの大バカなんだよ」 額と額を合わせ、僕は笑った。 由月は潤んだ眼で、僕を見つめた。 「浮気なんてするなよ」 「しないよ。7年間、ずっと由月に夢中なんだから」 「7年…。オレが小学1年の時からかよ」 「うん。一目惚れだったんだ。由月が男の子だって分かった後も、諦められなかった」 前へ |次へ |
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